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その言葉が終わるが早いか、後方、部屋の奥からガコンと大きな音が響いた。監督生は思わず振り返って、ヒュッ、と喉を鳴らした。ーー何もないと思っていた部屋の壁、その一辺の三角模様がパキパキ音を立てて畳まれていく。それは獲物を捕らえた巨大な怪物が大口を開けていく様子にも思えた。パキパキ、ピリピリと神経質な音と共に白い壁が失せていくと、向こうに広がるのは、何一つ照らす物のない、どす黒い闇を湛えた空間。監督生はもはや体を動かせないほど竦んでいた。暗闇の奥で唸る、重くがなり立てるような稼働音が段々近づいてくるのに気が付いたからだ。
監督生の視線の先、暗闇を背にしてオルトがふわりと降り立つ。
「びっくりした? この部屋も兄さんの特別製なんだ。照明もドアも、常に僕と繋がってる。僕の意思で自由に操作できるんだよ! ……つまりね」
ニィ、とオルトが片目を細めた。
「この部屋自体が、僕のもう一つの身体なんだよ」
ズワアッ、と白いものが監督生の視界を覆い、それは全身に絡んで喰らいついた。ひっ、と悲鳴を上げる間も無く絡め取られた肉体が持ち上げられていく。それは冷たく硬い無数の腕。黒々とした闇の中から無数に伸びたロボットアームが監督生の細い体を掴み、巻きつき、獲物に群がるかのように隅々まで縛り付けた。
「ーーっは、離して! こんなーーひぐッ!?」
不意に強く引っ張られて体がガクン、と揺れる。全身に絡みついたアームが監督生を暗闇の中に引き摺り込もうとしていた。踏ん張って抵抗するも意味を為さず、ズルズルと手繰り寄せられていく。闇の奥の稼働音はさらに大きく叫ぶように響く。監督生にはもはや体裁を保つ余裕はない。ただ子供のように声を張り上げ、側で笑う少年に哀願する。
「やだ、オルトっ、助けて! もう逃げないから、お願い……!」
「ふふっ、おかしな監督生さんだなあ。僕に助けを求めてどうするの?」
にこり、と笑んで首を傾げるあどけない仕草。しかし彼の兄によく似て冷たく、それでいて焼き付くような月の瞳に嗜虐の火が宿るのを監督生は見た。それは「年相応」のいたずら心のためか、それとも。
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しい(プロフ) - あやふやさん» コメントありがとうございます。頑張ります! (2020年10月12日 18時) (レス) id: 6987cf2560 (このIDを非表示/違反報告)
あやふや(プロフ) - 好みの作品です!更新頑張ってください!! (2020年10月12日 16時) (レス) id: 303d8e2bcc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しい | 作成日時:2020年10月5日 0時