揺れる髪に ページ3
俺は見惚れてしまった。
初めて出会った時もこんな感じたりやった。
電車で目があって、どこに行かれるんですかーみたいな、他愛のない会話をして。
別れ言葉を告げる時に会釈して。
風が大きく吹いて。
貴女の髪が空になびいて。
それが今の貴女に重なってしまっていた。
でも。
その包帯が邪魔をする。
頰を覆う包帯。
腕を覆う包帯。
首を覆う包帯。
美しい貴女を穢す不毛品。
要らんのに。
そんな事を考えていると、貴女はゆっくりとこちらを振り向く
そして、
目が合う。
なんとも言えない目だった。
眠そうな、
儚げな、
今にも消え入りそうな、
死んでしまいそうな。
でもなんだか、それも、綺麗、と思ってしまった。
俺の歪んだ愛は、こんな事も愛してしまう。
いっそ、俺が消えてしまえばいいのに。
彼女は口を開いた。
口にも当たっている包帯を、邪魔そうにあしらいながら、
寂しそうに、
切なそうに、
今にもどこかへ言ってしまいそうな、小さな声で。
「貴方、誰ですか…?私、記憶喪失…らしいんです。…誰…でしたっけ」
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作者名:笹木 ソレ | 作成日時:2020年3月11日 10時