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一方、MSWADに残っているグラハムは軍の空域内でフラッグを飛ばしていた。
「(今頃二人はAEUに向かっている最中か)」
他のファイターが陣形を保ちながら飛んでいるにも関わらず、グラハムはAEUに向かった二人の事を考えていた。
部下でもあるハティ曹長がいない為か、飛び方はいつになく控えめだった。
そもそもフラッグの性能のギリギリまで引き出して飛ぶのはグラハムとハティしかいない。
しかしながら彼女もまた才能を秘めた逸材で、その技術力の伸びしろは誰もが一目置いている。
経験は浅くとも操作技術はエース級、特に狙撃と操縦テクニックはずば抜けている。
接近戦は積極的ではないが回避は文句なしに上手い、どちらかと言えば援護の方が得意そうだ。
最近はシミュレーターでも接近戦を積極的にやっているようで、時折接近戦の模擬戦を申し込まれるようになった。
まぁ腕は最初の比べたら上達はしている、と言える。
「(初めましての時は本当に表情が読めなかったが)」
彼女は日本人の血を引いているようで、MSWAD内では珍しくも黒髪で黒く見える瞳を持っていた。
そして普段から喋る言葉は少なく、その容姿と少し気品のある行動でどこかのお嬢様かと思うほどだった。
ただそうではない、と気が付いたのは大分遅く先に気が付いたのは親友でもあるカタギリだった。
彼女とのコミュニケーションは仕事関係では何も問題ないのだが、何となく壁があるような気がしてそれをぽろっとカタギリに零したことがあった。
「僕はどちらかというと様子を伺っているように見えるけどなぁ」
「?どういうことだ?」
僕の勘だけども、と前置きを置きつつカタギリはコーヒーを注いでいた。
「彼女、失敗が怖いんじゃないか。もしくは怒られる事が怖いのか、相手の表情を伺って行動の先読みをしているんじゃないかなって」
日本にこんな言葉がある、空気を読む、っていうね。
「(だから時折身構えるのか)」
少し安心したような表情を時折見せるのはそういう事だったのか、と一人で納得をする。
『エーカー中尉、訓練終了時刻になります』
不意の通信で一気に現実に戻される。
了解した、と返せばすぐにでも着陸態勢に入った。
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作者名:椎名魏 | 作成日時:2019年12月4日 21時