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今日は祝日、それも相まってか館内の人は多く若干賑やかでもあった。
だが周りと違って、私たちは静かに鑑賞していた。
ひとつの水槽に数分とどまり、少し思ったことを口にし考察、意見を交わして次の水槽に。
ふと、水槽を見ている彼女の横顔を見た。
「(......まるで溶けて消えそうな、だが...)」
館内が薄暗いのもあるのか、彼女の髪の毛と背景が同化し境界線がぼやけて見える。
そして水槽を見つめている瞳は水槽の光を映し、きらきらと輝いていた。
美しい、と思えてしまうのは彼女に惚れているからなのか、それとも純粋に美しいからか。
「......エーカーさん?」
じぃっと見られていたことに気が付いたのか、彼女は少し心配そうな声色で私の名を呼んだ。
何でもないさ、と答え次の水槽エリアへと足を運んだ。
子供の声がやけに反響している、と思えばそこは大きな水槽のエリアだった。
視界目一杯広がる青、分厚いアクリル樹脂の向こうは優雅に泳ぐ魚の姿があった。
その前は階段状に座席があり、休憩スペースのエリアとなっているのか家族連れと思われる人たちが集まっていた。
「エーカーさん、お手洗いに行きたいので」
「あぁ分かった。私はそこのベンチで待っていよう」
直ぐに戻りますので、と言えば早足でトイレがあるだろう方向へと消えていった。
ベンチに座り水槽でも見ながらゆったり待つ。
「......おや、雰囲気が穏やかではないな」
ものの数分でハティは戻ってきたが、ピリッとした空気でそこに立っていた。
「...どうやら入館してから直ぐにつけられてた様で」
全然気が付かなかった、と彼女の言葉を聞いて思わず目を丸くした。
それは大丈夫なのか?と問えば多分大丈夫です、と曖昧な返事が返ってきた。
ハティはため息を付きながら私の隣に座る。
つけられた、という事は恐らくナンパ目的かそれ以上の事で、こちらまでもが気分が悪くなる。
「...あぁ、言葉足らずですね」
では一体?と問いただすと彼女はけろっと口にした。
「睨みつけたらどこか消えたので多分大丈夫です」
「つくづく君はとんでもない行動をしているな」
心配する要素が無いではないか、というと彼女はありがとうございます、と返してきた。
いや褒めたわけでは無いのだが。
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作者名:椎名魏 | 作成日時:2019年12月4日 21時