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目の前にいる男は平静を保とうと深呼吸をしている。
「...自分でもどうしたらいいのか分らんよ」
思った以上に深刻そうで、思わずこちらが苦笑を浮かべてしまう。
モビルスーツと空を飛ぶ、という事しか考えていなかったグラハムに小さな春が訪れていた。
カタギリは少なからずそのことには素直に喜んでいた。
過去にはお見合いの話もあったが、当時は誰にも空を奪われたくない、という理由で断っている。
初めて彼女が配属された時、グラハムが彼女を推薦していた事を知ったときに理由を聞いた時は軍人らしい回答だった。
恐らく彼女は成長する見込みがある、直感的にそう思った、と。
話を聞いている内に、最初はなかなか曲者だと語っていたが時間に経つにつれ、グラハムが彼女の話をする時の声色は柔和になっていた。
「...グラハム、君もしかして彼女に惚れているのかい?」
何となくそう思って何気なく発した言葉に長い事返答がなく、作業した手を止めくるりと椅子を回してそちらの方を見てみた。
彼は広いテーブルに向かって座っており眉を八の字にして、テーブルに両肘をつき掌で口元を隠していた。
白い肌だが掌に収まらない目元の肌が薄いピンク色に染まり、視線が定まらないのか少し目が泳いでいる。
暫く気まずそうな空気が流れ、やがて恐る恐るこちらを見たグラハムと視線がかち合うと耳元まで赤くなっていった。
そして大きな溜息が零れ、崩れ落ちる様にグラハムは机に突っ伏した。
「......まさかキミ、今言われて自覚したとか」
「......」
「...マジかい?」
珍しくも今日は黙り込む時間が長い、どうやら色々と自覚させられているのだろう。
そして蚊のような細い声で、あぁ、と答えた。
思わず僕はくすくすと笑ってしまう。
「まさか君に春が訪れようとは」
笑うな、と聞こえたが聞こえないフリをして、良かった良かった、という。
初々しい表情をしていると思うとこれからが少し楽しみだ、なんて考えていた。
少し前の思い出に浸りながらも、目の前にいる彼はどうアピールするか迷い込んでいた。
「まさか私がカタギリに恋愛相談などするとは思わんよ」
それは僕も同じさ、とだけ返事して端末のキーボードを叩いた。
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作者名:椎名魏 | 作成日時:2019年12月4日 21時