002-5 ページ7
長閑な春の光があたたかく、午後になって気温も上がると薄明のような眠気が襲ってくる。喫茶店でレスカを飲んだからといって目が覚めることもなく、相良は喫茶店のドアを開けてAをエスコートする片桐を横目に大きな欠伸をこぼした。
我慢できずにお前らアベックか？と片桐にもう一度小さく尋ねてみたが、ただの従妹だという返答にもう何も言うことはない。
「智司さん、今日は出会えて良かったわ。ありがとうね」
Aは優雅に日傘をさし、鉄の柱でも入れているかのようにまっすぐ伸びた背筋を折り曲げ、はらりと落ちてきた髪を耳にかけた。姿勢がいいせいなのか、高校生にしては随分と大人びて見える。本当に高校2年生か疑う程だが、お嬢様となれば仕草や振舞いは小さい頃から仕込まれてきたのだろう。
Aは片桐から相良へと向き直り、花が咲くように唇を綻ばせて「相良さんも、ありがとうございます」と体を畳むように深々と頭を下げた。
喧嘩ばかりの毎日でお礼を言われるような事はしてこなかった。頭を下げさせた事はあるが、感謝の為に下げられた事なんてない。ましてや「知り合えて嬉しい」だなんて言葉、不良に伝えるものではない。
「フン･･･勝手に言ってろ」
それでも、胸に淡く喜びが浮かんでしまうのはどうしてなのか。相良は面映い内心を悟られないよう顔をそらしたが片桐にはどうやらお見通しだったらしく、口の中を奥歯で�筋むようにし堪える片桐を目を三角にして肘で突いた。
AAという女の子と出会って分かった事は家は開久高校付近だということ、ひとり暮らしではなくメイド達と一緒だということ、高校は成蘭女子だということ。そして、彼女に脅しや威嚇は一切効かないということ。
「お前、不良と関わって生きてきたのかよ」
と訪ねて返ってきたのは
「私�爐�前�瓩覆鵑討いμ樵阿犬磴覆い錙�Aよ」
だ。この界隈で名前を知らない者はいない開久高校の不良、しかも狂犬と恐れられている不良相手に言い返してくるその度胸は普通の女子高生ではありえない。
「只者じゃねェな･･･」
「？ 相良さん、何かおっしゃいました？」
Aは相良の思考を知る由もなく、長い睫毛をはたはたさせて「面白いお方ですね」と片桐に笑いかけている。開久の頭の前で女に手を出す訳にはいかず、相良は舌打ちをして鞄を抱え直した。
―――いけ好かねェ女。
それが相良にとってAAの第一印象だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 249人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
綾波(プロフ) - ナスさん» 初めまして！すごく好きだなんてとっても嬉しい限りです…！相良君とゆっくり恋を育んでいきたいと思っておりますので、これからの展開とドキドキ感のご期待に添えられるように頑張ります！ (2020年9月2日 23時) (
レス) id: b41655ec04 (このIDを非表示/違反報告)
ナス(プロフ) - きゃ〜！お上品かつ、聡明な小説でその上ドキドキしちゃいます。すごく好きです……！これから発展していく恋愛に期待してます！応援してます。 (2020年9月1日 1時) (レス) id: 28e97fe75f (このIDを非表示/違反報告)
綾波(プロフ) - 如月さん» 初めまして！面白いと思っていただけて大変嬉しいです！これからもまだまだ更新していきますので、今後ともぜひ宜しくお願いします(*´ `*) (2020年8月27日 19時) (レス) id: b41655ec04 (このIDを非表示/違反報告)
如月 - 面白くて一気見しました！ (2020年8月27日 17時) (レス) id: 9293909c4a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：綾波 | 作成日時：2020年8月14日 13時
