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病院の玄関を出ると、消毒液の匂いのこもった空間とは違う甘い夜風が鼻腔をくすぐり、少しだけ肩の荷が下りたようにホッと安堵の溜息が自然とこぼれた。
片桐の怪我具合から入院コースかと不安に駆られていたAだったが、頭をぎゅうぎゅうに包帯で巻かれた彼の姿に胸をなでおろし、唇から隙間風が漏れるような小さな笑い声を立てて片桐に駆け寄った。
「ふふ、すごい巻かれ方ね。大丈夫？」
「大袈裟にされただけだ。･･･A、心配かけて悪かった」
片桐は気まずそうに視線を逸らし、喉もとにせりあがってくる言葉のかたまりを錠剤のように飲み込んで口を噤む。何か言いたげだけど、空気と一緒に吐き出せる言葉が見当たらないのか、ゴクリと喉を鳴らして深い息を吐き出す片桐の顔を控えめに覗くAだったが、不意に胸のすくような快さで髪を撫でられ、息が止まってしまうほどの強い力で片桐の身体をぎゅっと抱きしめた。
彼の胸に頬を寄せ、心臓の上に耳をつける。片桐の腕がゆっくりと背中に回り、制服を通して彼の体温と鼓動が伝わって心があたたかくなるのがわかった。言葉では伝わらない、伝えられない言葉を知って、鼻の奥がツンと痛み、視界がじわりと滲む。
「･･･智司さんが、私の知らないどこかに行ってしまう気がしたの」
千葉県随一の不良高校でありながら、彼らを統率できる唯一無二の豪傑。そして圧倒的存在感を放っていた名実共にNo.1の片桐が大怪我を負った。それだけではない。開久の頭が大怪我で倒れていたというのに、周りには彼の仲間である開久の不良達の姿が誰一人としていなかった。No.2である、銀色を靡かせる狂犬の姿もなかった。
「―――いなくならないで」
寂しげに震えるAの声。開久でクーデターが勃発したことも、No.2が裏切ったことも、片桐が頭を降りたことも、何ひとつ彼女には知らされていない。重く黒ずんだ不安が心の奥底でじっと淀んで消え去らずにいるのだ。
Aの背中に回されていた片桐の腕が静かに離れ、長い指が彼女の頬をそっと撫でる。伏せられていた彼女の瞳が僅かに上を向いた眼差しは、底の見えない壺に広がる空洞のようだった。脳の中で目に見えない何かが炸裂して、飛び散ってしまった言葉を必死にかき集めてどうにか平静を装うようにしている。
「Aをひとりにはしねぇ」
「･･･約束よ」
「あァ、約束だ」
Aは潤んだ目を隠すかのように、わざとらしく片桐の胸に顔を埋めて小さく鼻を啜った。
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綾波(プロフ) - ナスさん» 初めまして！すごく好きだなんてとっても嬉しい限りです…！相良君とゆっくり恋を育んでいきたいと思っておりますので、これからの展開とドキドキ感のご期待に添えられるように頑張ります！ (2020年9月2日 23時) (
レス) id: b41655ec04 (このIDを非表示/違反報告)
ナス(プロフ) - きゃ〜！お上品かつ、聡明な小説でその上ドキドキしちゃいます。すごく好きです……！これから発展していく恋愛に期待してます！応援してます。 (2020年9月1日 1時) (レス) id: 28e97fe75f (このIDを非表示/違反報告)
綾波(プロフ) - 如月さん» 初めまして！面白いと思っていただけて大変嬉しいです！これからもまだまだ更新していきますので、今後ともぜひ宜しくお願いします(*´ `*) (2020年8月27日 19時) (レス) id: b41655ec04 (このIDを非表示/違反報告)
如月 - 面白くて一気見しました！ (2020年8月27日 17時) (レス) id: 9293909c4a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：綾波 | 作成日時：2020年8月14日 13時
