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006-4 ページ22

心臓が、肋骨を突き破りそうなほどに大きく鼓動を主張する。

「・・・相良さん?」

 颯々たる風の音が耳をくすぐる。コツ、コツ。靴が地面を叩いて、焦点を合わすように瞬きをして写ったのは眼を射すような赤だった。

「相良さん!」

 Aは持っていた日傘を手放し、仰向けに倒れている相良の傍に顔を寄せた。肺は上下に動き、心臓が生命を強く主張している。意識は浮上していないが、頭から頬に伝う血痕から考えて気絶だ。
 鉄分を含む血の匂い。鼻腔(びこう)を啜り、鞄からハンカチを取り出して痛々しい血痕の上からそっと押さえる。これは、素手で殴られて負った血なのだろうか。不良達の喧嘩に手加減など存在していない。それは相良の怪我から伺えるが、最強だと耳に挟んでいた開久の不良がここまで倒されるとは。

「・・・強敵登場、ってところかしら」

 相良の頬に指を滑らせる。甘い顔をしているのに鼻筋はしっかり通っていて、ちょっと頬骨が高い端整な風貌。

「きれいなお顔に傷だなんて。男の子って、大変なのね」

 彼の顔に付着している血をハンカチで拭い、ゆっくりと頬から髪を撫でた。


 ▼ ▲


 清香が鼻腔をくすぐる。淡い芳香が胸の奥までほのめき入り、相良は睫毛を震わせながらぼんやりと瞼を開けた。惘々(もうもう)とした視界がゆったりとクリアになっていき、大理石のように重い雲が視界いっぱいに入る。
 軟高の三橋に一発入れてやろうと物陰に潜んでいたが、逆に一発殴られて気絶してしまうなんて。勃然とした憤怒がフツフツと湧き上がる。

絶対(ぜってェ)許さねぇ・・・ブッコロしてやる」

 それに気づいたのは、雨に濡れたアスファルトに手をつき、鉛のような上半身を起こした時だった。ふわりとした感触が相良の手の甲に乗って、それがハンカチだと気づくのに数秒かかった。

「なんだァこりゃ・・・」

 染みになったような血痕の付いたハンカチは相良にとって身に覚えなどないが、柔らかい香りのするハンカチのにおいは妙に胸にひっかかる。
 無意識に伸びた指が唇に触れる。他校の不良をシメ上げた時に殴られて切れた傷、人が寄り付かないような場所にやって来た影、澄明にろ過されたような声。それから、躊躇なくペタリと貼られた絆創膏。

「―――・・・A、」

 不良(ツッパリ)相手に怪我をするなと注意したり、お節介に絆創膏を貼ったりする、花のように頬を綻ばせる彼女の姿が花火のように弾けた。
 

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綾波(プロフ) - ナスさん» 初めまして!すごく好きだなんてとっても嬉しい限りです…!相良君とゆっくり恋を育んでいきたいと思っておりますので、これからの展開とドキドキ感のご期待に添えられるように頑張ります! (2020年9月2日 23時) (レス) id: b41655ec04 (このIDを非表示/違反報告)
ナス(プロフ) - きゃ〜!お上品かつ、聡明な小説でその上ドキドキしちゃいます。すごく好きです……!これから発展していく恋愛に期待してます!応援してます。 (2020年9月1日 1時) (レス) id: 28e97fe75f (このIDを非表示/違反報告)
綾波(プロフ) - 如月さん» 初めまして!面白いと思っていただけて大変嬉しいです!これからもまだまだ更新していきますので、今後ともぜひ宜しくお願いします(*´ `*) (2020年8月27日 19時) (レス) id: b41655ec04 (このIDを非表示/違反報告)
如月 - 面白くて一気見しました! (2020年8月27日 17時) (レス) id: 9293909c4a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:綾波 | 作成日時:2020年8月14日 13時

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