愛、哀【wrwrd】【短編集】 (ページ27)

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A目線

これは、夢──？

高い橋の上に立つ女性。
夜空はキラキラと輝いていて…女性は足を踏み出した。

女性の手を握り、落ちる直前で女性を救う男性。
女性を助けた男性と女性は、橋の上で休んでいる。
女性…ではない。これは私なんだ。
それに、この男性…見たことがある。ああ、貴方は──

A『っ！』

布団から、転げ落ちる勢いで飛び起きる。
目の前の化粧台の上には青い宝石が付いたアクセサリーの数々。

アクセサリーを手に持ち、床に思いっきり投げつける。
虜になってしまっていたこの生活の終わりもすぐそこにあるんだね、ねぇそうでしょ？

──トントン。

全て思い出した、いや、やっと受け入れることが出来た。
私をあそこから救ってくれたのは鬱先生じゃなくて、トントン。
そして、そのトントンを殺したのは鬱先生。

知っていたのに、忘れたわけじゃなかったのに。
受け入れられなかった、優しい鬱先生がトントンを殺すなんて、この生活を終わらせる必要があるなんて。

私は声も出さずに、一筋だけ涙を流した。

A『でも…とにかく逃げなきゃ。』

そう思って、館のやけに重たい扉を開いた。

ショッピとチーノがいる。
嫌な予感がして後ずさりすると、何かに軽くぶつかる。

ut｢……逃げるなんて、嫌やで？｣

私はそこで、ふっと意識をなくした。

ut｢あ、おはよう。気分はどぉ？｣

A『どうして、トントンを…』
ut｢あ、思い出したん？可哀想に、今めっちゃ辛いやろ？可哀想なA…｣

鬱先生は哀れむような言葉とは裏腹に、恍惚とした表情を浮かべる。

ut｢でもさぁ、トントンもおらんし、この生活に不自由はないし…ならこのままでもええんちゃう？｣

A『だって…』

ut｢大丈夫。トントンは優しいから君だけが幸せになっても怒らんよ。な、これ…飲んで？喉渇いたやろ。大丈夫、幸せになるだけ。｣

鬱先生は小瓶を開け、私の口に無理矢理それを入れる。
トントンがふわふわと私の記憶から抜けていく。
やだ、トントンのこと忘れたくないよ…っ

A『トントン…っ、やだ、いかないで！』
ut｢ふふ、可哀想…♪｣

目の前に、トントンらしき人が薄らと見える。

tn｢助けられんくて…俺が不甲斐ないから死んでもうて…ごめんなぁっ｣

……何で？トントンが謝ること、ないのに。
私も鬱先生もショッピもチーノも…この生活の虜になったのが悪いんだから。