２:優しさと覚悟のフィナーレ ページ5
約束の日。
彼は私を城内へ案内する。きらびやかなシャンデリアの下を通り、すれ違うメイドさんたちに会釈をし、向かうのは地下へ降りる階段。
蝋燭でぼんやりと灯された廊下は、武器庫だったり倉庫だったり。閉架図書室もあった。気になるわね、見てみたいわ。
そして護衛の方もいなくなってしまった端の部屋、エーミールの透き通る綺麗な瞳で、虹彩認証が通る。開けられた重厚そうな扉の奥に、それはあった。
「…これ？」
「そうです、これが、例のものです。」
そう言うと白い軍手を外し、歯に加えながら同じ軍手を付け替えたエーミールは、それに掛けられた布を外す。
「…………ほぉ……」
「……どうです？実際に見てみて、」
「……確かに1000年前よ、この塗料の落ちよう、なのに、なんなのこのクオリティは……。」
それは衝撃だった。
黒い軍手をはめて、モノクロを付けて絵を至近距離で見る。パースも、一点消失技法も、人物のバランスも、絵のタッチも、1000年前に描かれたとは思えない程の出来であった。ため息がこぼれる程、美しい。
しかし謎は残る。
1000年前に何故こんなにも完成度の高い絵画が描けたのか、一体誰が、この時代の美術は基本的に壁画なのに、キャンバスで描かれている。帆布だ。なぜ壁じゃなかったのか。……否、
((……ん？))
そして微かな違和感、それは嘆く男の手にある1枚の絵だった。だらん、と垂れ下がった左手に、こちらに絵が見えるように挟まれている。まじまじと見る、宗教画のようだ。
「(……細すぎてよく分からないわ、けれどあの手にある絵は、恐らく宗教画、キリストでもブッダでもない……けれどこんな顔、見た事ないわ……。)」
崇拝対象、いわゆるその教祖の顔、あまりにも細かいためわからないが、特徴的に見た事がない。これぐらい細かくてもだいたい特徴は掴めたりするものなのだが……。
「……写真撮っていいかしら、」
「？いいですよ、……何か気になる事が？」
「いっぱいあるけれど……ん？」
そういえば、
「これ、民家のシェルター内にあったのよね？」
「えぇ、」
「シェルターって、最近作ったはずでしょ？」
「最近というか、まぁ建国して、国土を広げてひと段落してからですね。」
「……なんで今まで見つからなかったの？」
「家主は、月一でシェルターを確認するみたいなんです。それが、今まで無かったはずのこの絵が突然置いてあったそうです、それで怖くなり、通報したんだと。」
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