アナザー・ストーリー〈赤〉 (ページ10)

今日:14 hit、昨日:24 hit、合計:9,585 hit

・ページ10

·

「お兄ちゃん、」

小さくそう呟いても、秋風に拐われていくだけ。

見上げた先の空はまだ明るかったけれど、
青を埋め尽くす鱗みたいな雲が何だか怖かった。

三十分が経った頃、私はあなたを迎えに行こうと、
駅の方へ歩き出した。

大人の足で歩けば、十分かからずに着く駅。

でも当時の私は、まだ一人で駅に行ったことなんかなくて、
不安げな足取りでよろよろと歩いていた。

帰宅ラッシュにはまだ早い、この時間帯の駅までの道は、
人通りが少なくて。

歩いても歩いても見えないあなたの姿に、心細さは増していく。

その時不意に、強い風が吹き上げて、
私が手に持っていたいちょうの葉が、飛ばされてしまった。

幼い私は、どうしようもなく泣きたくなって、
私の足はついに止まった。

道の端っこにランドセルを下ろして、
座り込んでしまったんだ。

「お兄ちゃん、どこおるん」

呟いても、あなたの声はしなくて、目頭が熱くなっていく。

「お兄ちゃんっ、」

もう一度あなたの名前を呼んだ時、
しゃがみ込む私の前に、影が落ちた。

「A、迎え来たで」

·