愛 ページ5
·
「A、俺、Aのこと好きやねん」
「…うん、」
「女の子として、好き」
「…そんな気が、してた」
「Aは、大ちゃんが好き？」
「好き、だった」
「そんな気がしてた」
「でもね、これはおかしいことで駄目なことやって、
分かってる、私」
「大ちゃんはきっと、Aに想い伝える気ないよ」
「それも、分かってる」
「俺、大ちゃんみたいに頭良くないし、大人やないけどさ」
「うん」
「きっと、Aを幸せに出来るのって、
大ちゃんやなくて、俺やと思う」
「…うん、」
海が鳴いている。大きな音を立てて。
曇り空。
温い風。
新品の制服を纏う私と、色褪せた制服の流星。
何にもロマンチックじゃない。
けど、私の心は、生きてきた中で一番穏やかだった気がする。
やっと、あなたに恋をする無謀さと苦しさを捨てられる。
この時私は、ようやく心から流星を好きだって心から思えた。
もう、先の見えない暗い道を、歩く必要はないんだ。
流星となら、白昼の灘らかな道を、歩いていけるんだ。
だから、あなたも。
お兄ちゃんも、新しい恋をしてね。
·
「…A、朝やで」
開けたカーテンの隙間から差し込む真っ白な朝日と、
いつも通りのあなたの顔。
そっか、夢だ。
流星と想いを伝え合ったあの日の記憶を、呼び起こす夢。
流星はまだ、夢を見ているまんまで、
私だけが現実を生きなきゃいけないのに。
あなたの近くで、浅く呼吸をしながら、
生きなきゃいけないのに。
また、あなたが、私の中で大きい存在になってしまっているのに。
でもね、こうするしかなかった。
親らしいことなんてしてくれなかった親とは、
もう一緒に暮らせる自信もなくて。
流星がいない日常になってしまった今、
弱い私はあなた無しでは生きていけるわけがないんだって。
だから、今日も私は、
あなたへの気持ちが零れそうになるのを必死に抑え込むことしか、
出来ないんだ。
だってあなたは、
「お兄ちゃん、行こ！」
お兄ちゃんだから。
·
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作者名：みなみ | 作成日時：2023年7月3日 12時
