アナザー・ストーリー〈赤〉 (ページ32)

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「A、嫌やったら突き飛ばしてええんよ」

あなたの声は、頼りなく震えていた。

どうか、そんなことを言わないで欲しい。

強く回している私の腕が答えだって。

どうして分かってくれないの。

「そんなことするわけないやん」

「何で」

「私には、もうお兄ちゃんしか居らんから」

いつだって自信なさげなあなたには、
ようやく振り絞った私の気持ちさえ、
ぐるぐると拗れて、歪んで伝わっていってしまう。

私には、もうお兄ちゃんしか居ない。

あなたしか見えない世界を切り裂いてくれた流星は、
目を覚まさなくなってしまった。

そうしたら、またその切り口はあっという間に塞がってしまった。

そんな世界に居るままの私でもいいと言ってくれた望は、
やっぱり明るく広い世界に目を眩ませて、
私から離れて行ってしまった。

何度も逃げようと、避けようと、離れようとしたのに、
最初から最後まで私の世界の真ん中に立っていてくれたのは、
やっぱりあなたしか居ないんだって。

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