アナザー・ストーリー〈赤〉 (ページ30)

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あなたは人通りの少ない所に車を停めて、
私の代わりに荷物を取りに行ってくれた。

今日は一日ずっと一緒に居たから、ほんの数分なのに、
あなたの車に一人でいるのが寂しく感じてしまう。

一人、冷静になってみると、
昨日、あなたが想いを伝えてくれたこと、
キスをしてくれたことの記憶が、
洪水みたいに蘇ってきて、頬が熱くなる。

それなのに、頭の中は冷たく、真っ白なまんまなのは。

あなたに、私も好きだよって言えないのは。

あなたは、私と同じ気持ちで居てくれていないから。

もし記憶を残したまま、時を戻したら、
あなたはきっと昨日をやり直して、キスをしてくれない。

何なら、私に恋をしないだろう。

狭い車の中。

何かを呑み込んだ顔のあなた。

溢れそうになって、叫びそうになる想いはつっかえたままで。

やっぱり言えなくて。

でもこのままだと息が苦しくて仕方がないから、
代わりにそっと、あなたの左手に触れた。

あなたの左手は温かいのに、
私の手をちらりと見たあなたはほんの少し眉を下げて。

真っ直ぐ前を見たまま、私の右手を自然に振り解いてしまった。

涙が零れそうだった。

やっと、私は素直になって、茨の道を歩み出そうとしているのに。

ちゃんと過去にもさよならをしようとしているのに。

どうしてあなたは、自分と私の苦しさをわざわざ全部拾い集めて、
自ら閉じこもってしまうの？

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