アナザー・ストーリー〈赤〉 (ページ29)

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決別の海ページ29

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「私、大きくなったら海の傍に住みたい！」

ランドセルを背負った私と、制服姿のあなた。

何時かの二人の影が、思い出の海の浜辺に、見えた気がした。

あなたは、幼い私のそんな言葉を、今も覚えているのかな。

「じゃあ何時かお兄ちゃんと住むか？」

私は、今も、その夢を待っていることを、
あなたは知っているのかな。

殆ど吸い込まれるように波打ち際に足を浸す。

不思議と冷たさは感じなくて、
ただただ、寄せては引いていく波に、
中途半端に揺れ続ける自分の想いを重ねた。

でももうそれも、今日までで終わり。

「A、昔から海好きやったよな」

「うん、大好きだよ、今も。沢山思い出あるもん」

私は、もう、自分に正直になるよ。

あなたが、好き。

兄だけど、家族だけど、それでも好き。

目を覚まさない流星にも、
好きになりきれなかった望にも、
もう寄りかかるのは止めて。

あなたしか見えない世界で、あなたと生きていきたいの。

さっきの病室で、もう、けじめは着いた。

だから、あなたも、迷ったりしないで、私だけを愛してほしい。

私だけを見て欲しい。

心のままに、私を求めて欲しい。

虚しさと不安を滲ませたままのあなたを見ていたら、
好き、を、声にすることはやっぱり怖くて、
まだ出来なかったけれど。

私は、私は。

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