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病院の中に入り、いつも通り突き当たりを右に曲がる。


すると後ろであなたが左に曲がろうとしたのが見えて、
一瞬体が固まった。





そうだ。

病室が変わったの、本当は知らないはずなんだった。


私はもう一年以上も新しい場所の病室に行っているから、
いつもの癖でそうしてしまったけれど。







不思議そうな表情のあなたをなんとか押しきって、
病室の前に辿り着く。



あなたの中でこの病院の記憶は思ったよりも曖昧、というか、
自ら思考の外に出していたようで。

あなたは特に疑うことも無い様子だったことに、
胸を痛めつつもほっとした。




それだけ、あなたは流星を避けたいんだ。

それだけあなたは、流星を、恐れている。










やっぱり眠っている流星を見て、
落胆と安堵、どちらにも見える表情を浮かべたあなたからは、
そっと目を逸らした。





窓際に飾られている青いアネモネは、
看護師さんが水をちゃんと変えてくれているのか、
まだ美しく咲き誇っていて。

その青さに、三日前、ここで流星に話したことを思い出す。




流星に、話したこと、やっぱり現実になってしまった。




「夢や、ないんやね」


流星、ごめんね。

やっぱり、避けられなかった。

だから、ちゃんと謝りに来たよ。


流星はきっと、あなたにも会いたがっていただろうから。

一緒に来たんやで。









あなたは入口に立ち尽くしたままだった。

きっと私のエゴだ。

自己満足だ。


だけど、どうしてもあなたと二人、
流星の前に顔を出して、ちゃんと伝えたかった。

謝りたかった。












「流星、」

久しぶりに聞いた、流星の名前を呼ぶあなたの声に、
幼い頃の記憶がどっと押し寄せて、胸が締め付けられる。




どんなに流星に謝ったってきりが無いし、
仕方が無いかもしれないけれど。







流星、私たちの時は、
もう、とっくに動き出してしまっているんだ。





流星だけを、あの時の中に閉じ込めたままで。










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決別の海→←止まった時計



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作者名:みなみ | 作成日時:2023年7月3日 12時

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