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その二日後。
非常階段。
知らない女の子の前で、私の知らない顔をして、
優しくキスをしている望の姿を見てしまった時、
私の頬には自分勝手な涙が流れて。
もしかしたら、私は思っていたよりも望に寄りかかっていて、
望を大切に想っていたのかもしれないと。
ようやく自覚した。
望がいれば、私は、あなたのことを忘れられるはずだった。
でもそれにはまだ、時間と思い出が足りないのに。
「どうしたん?具合悪い?」
放課後の教室で、自分の席に座ったまま、
動けなくなってしまった私を見て、眉を下げる望は、
いつもの望で。
悲しいとか、悔しいとかじゃなくて、
ただただ、息が苦しかった。
涙は出なかった。
泣きたいのは望の方だよね。
望は、何処までも中途半端な私に振り回されて、
私の中にある、大きすぎるあなたの存在に、
ずっと押しつぶされ続けた。
もう、解放してあげなきゃいけないし、
私ももう、望に何も期待したくない。
そして、自分にも。
いつも通りの声で、優しく話しかけないでほしい。
勘違いしそうになるから。
まだ、縋ってしまいそうだから。
足は、勝手に動いてた。
定期もなくて、傘もなくて、温もりも何処にもなくて。
雨と、苦しさで重たい体を引きずるように、
何分歩いたかすら分からないまま、気付けば家に辿り着く。
いつものドアが見えた瞬間、堪えていた涙が勝手に零れて、
雨でびしょびしょの顔がもっと歪んだ。
今、私はやっぱり、
誰よりもあなたの温もりを求めてしまっている。
会いたい。
早く帰ってきて。
お兄ちゃん。
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作者名:みなみ | 作成日時:2023年7月3日 12時