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ぶかぶかの体育着の袖で遊びながら、
あなたの背中に身を預けた。
いつもより高い視線が広がる帰り道は、
向こうに見える海に、夕陽がじりじりと沈んでいくのが、
綺麗に見えていた。
「お兄ちゃんの服!お兄ちゃんと同じ目線!」
「ははっ、ええやろ」
「うん!」
プールの中で身動きが取れなくなっていた私をすくい上げたのは、
お兄ちゃんだった。
お兄ちゃんの体育着に着替えて、
怖い、歩けないってわがままを言う私を、
お兄ちゃんはええよっておんぶしてくれて、二人で帰った。
「ねえ、何であの時小学校に居たん?
何で私がプールで溺れてるって分かったん?」
「んー?僕はな、Aのことなら何でも分かるんやで」
「え、何でも?」
「うん、何でも」
「嘘やあ」
「ほんまほんま。
やってさ、僕はAのヒーローなんやから」
「ヒーロー?」
「うん。ヒーロー」
自分は濡れたままの制服で、
私のランドセルも全部持ってくれていたあなたの姿。
あなたの声。
あなたの背中。
全部全部覚えてる。
何であなたがあの時小学校に駆け付けたのかは、
今でも分からない。
だから私は、信じてた。
あなたは私のヒーローだって。
子供ながらに、あなたのことが、本気で好きだった。
「じゃあ、私が泣いてたり、困ってたら、
いつでもお兄ちゃんが助けてくれる?」
「当たり前やろ。ずっと守るよ」
嘘つき。
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作者名:みなみ | 作成日時:2023年7月3日 12時