狡猾 ページ16
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スーパーの袋が、掌に食い込んでくる。
幼い頃の、何の躊躇いもなく、
あなたの柔らかくてちょっと小さな手に、
触れられていたあの日を思い出す。
流星が三年も眠っていると、どんなに抗っても、
流星の存在よりもあなたの存在の方が大きくなってしまう。
それが、苦しい。
でも、一つ屋根の下で毎日一緒に居るんだから、
少し疲れて帰ってくる顔とか、
私の作るご飯に必ず美味しいって言ってくれることとか、
お風呂上がりの濡れた髪とか、
寝起きの甘ったるい声とか。
胸をいちいち高鳴らせてしまう。
私は結局、流星が隣に居てくれないと、
昔の私にすぐ逆戻りしてしまうみたい。
それが嫌なのに。
この先には、幸せなんて待っていないことを、
分かりきっているのに。
あなたが私のことを愛おしそうに見つめてくる度に募る好きを、
抑えられないの。
また、あなたしか見えない、二人の世界に落ちていってしまうの。
目を覚まさない流星に絶望することにも慣れた。
慣れたくなかったのに。
アパートのドアを開けて、スーパーの袋を床に置くと、
溜息も一緒に漏れた。
無邪気で、聞き分けのいい妹のままで居たい。
あなたの私への想いには全く気が付かずに、
明るく振る舞うままの私で居たい。
携帯が震えて、画面には望の名前。
また溜息が出る。
あなたも、早く他の誰かと幸せそうに笑い合ってくれたら、
私は。
でもあなたはきっと、私以上に狭い世界で、
何も割り切ることが出来ずに生きているんでしょう？
私にとっての流星のような、
光になる存在や、白昼の温かい恋を知らずに、私だけを見てる。
もっと狡猾な男だったらよかったのに。
そう思う私も、流星の存在が離れた今、
あなたばかりが見えているんだから、人のことは言えないか。
晩御飯を食べる時は、一日の中で一番、
あなたの顔を真っ直ぐ見なければいけない時間だから、
ちょっと苦手。
だから私は、わざと望の話ばかりする。
私はあなたと違って、狡猾すぎるのかもしれない。
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作者名：みなみ | 作成日時：2023年7月3日 12時
