未知 ページ11
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「…流星?」
「帰ろ、A」
「何で、」
「大ちゃん、来ないんやろ?」
「そうやなくて、…流星、帰ったんやなかったん?」
「一回帰ったけど、…何か心配なったから来た。立てる?」
「…うん」
流星の肩は微かに上下していて、
私のことを探し回ってくれていたんだ、ということ、
そしてこの時、約束の時間からもう一時間も経っていることに、
ようやく気がついたんだ。
「お兄ちゃん、何で来おへんかったんやろ」
「…A、海行くか」
「今から?お母さんに怒られてまうよ」
「俺と一緒やったって言えば大丈夫やから。な?」
地べたに置いたままだったランドセルをひょいと持ち上げて、
私の手を握って、流星は走り出した。
来る時はあんなにもどんよりして見えた道のりが、
流星と走ればあっという間で。
何だか怖かったはずのうろこ雲は、遠くに流れて、
淡い紫色の空が広がってた。
「寒っ、」
十月の海は風が強くて、波も荒れていたけれど。
空の色を反射した紫色の海の向こうに、
沈み切りそうな夕陽の欠片が見えた。
「日の入り、間に合ったな」
「綺麗やね」
「見て、もうすぐ沈み切るで」
夕陽のオレンジ色が、海に溶けていくみたい。
いつも日が沈む前にはちゃんと家に帰っていたから、
こんな瞬間は初めて見た。
水平線を眺めていると、温もりが私を包む。
「風邪引いたらあかんから」
肩にかけられた流星のブレザーは、流星の温もりが残っていて。
「ありがとう、」
その温かさに、私の胸はじんわりと解れていった。
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作者名:みなみ | 作成日時:2023年7月3日 12時