ヒーロー ページ2
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「Aっ、A!」
小学三年生の時、プールに落ちたことがある。
暑い暑い夏の日だった。
放課後、プールの掃除当番で、プールサイドを掃除していた。
お兄ちゃんが褒めてくれた、
お気に入りのスカートを履いていたことだけ、
何故だか色濃く覚えている。
同じく掃除をしていた男の子二人の悪戯だった。
背中を押した掌の感覚と、一瞬体が浮いたあの感覚は、
今も残ってる。
大きな水飛沫と、遠くなる音に、
幼かった私は恐怖を感じて、身動きが取れなくなった。
スカートが水の中でふわふわと翻って、
私は今何処に居るのかも分からなくなって。
無抵抗のまま、濡れた衣服の重みで下へ下へと沈んでいく。
私、死んじゃうのかな、なんてぼんやり考えた時に過ぎったのは、
お兄ちゃん、あなたの顔だった。
その顔に安心して、目を閉じた瞬間、
水が激しく泡立つ感触がして、私の体はもう一度浮いた。
その時の、背中と膝裏に感じたあなたの腕の感触と、
眉間に皺を寄せた苦しそうな表情は、
何年経っても、忘れられなかった。
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作者名:みなみ | 作成日時:2023年7月3日 12時