Episode01 開巻劈頭 ページ1
彼はとても魅力的だった。
ただ、魅力的と安定を天秤にかければきっと後者が重力に素直だろう。
彼は魅力的だけどどこか不安定で寂しそうで安定だけが欠けていた。
「ねぇ、聞いてる?」
彼女の声に私はハッとし慌ててグラスを持ち、ストローで中身を吸う。
氷同士が液体が減るにつれてカランとぶつかり合う音が響き、元の場所にグラスを戻した。
「ごめんね、なんだっけ?」
「全く…あんたの彼の話!」
彼___その単語で私は再び彼の顔が瞼の裏に浮かんだ。
金髪で、碧眼の綺麗な瞳を持つ、彼女の私でさえ謎が多くある人物。
「安室さん?良い人だよ」
「どこが良い男よ。そもそも29でアルバイト店員って…。顔が良くても私は絶対無理」
彼女、もとい涼宮 櫻子はそのトレードマークとも言える肩までの長さの外ハネがどうなっているか気になって手で優しく触った。
「ライバルが減って良かったよ」
口角を上げ櫻子に笑いかけるとその笑みの返事が深く大きなため息だった。
櫻子は長細いスプーンで目の前に置いてある苺パフェのクリームを掬い上げ口に運ぶ。
「そういえば、安室さんとこれから会うんでしょ?」
「うん。でもまだ時間あるから…ゆっくり食べて」
そう言って私は彼女が食べている苺パフェを見て、それから窓際の席の特権である外の景色を眺めた。景色いっぱいに広がるのは空と建物と道路…なんて味気ない景色だろう。
記憶の海に潜るのは十分な程、つまらない景色だった。
「痛ッ…手切っちゃったから保健室行ってくるね」
それは大学生の頃、私が大学1年生の時に警察学校看護学科の演習を行っていた時、アンプル(液体が入っているガラス製の容器)の切れ口で指が切れて血が薬指から滲み出した。
ペアの学生に一言言ってから1階の保健室に行くと保健室の先生が不在だった為、1人で処置をしていると扉が開いて、そこに降谷零がいた。
「先生なら今不在です。…血、出てますよ。座ってください」
彼は有名だった。
降谷 零…警察科の中でもトップの成績で、でも喧嘩っ早くて傷が絶えないって。
そんな彼は看護女子を魅了していたし人気の1人だ。
「これでも看護師の卵なんで、切り傷の応急処置位はできます」
消毒液と絆創膏を用意しながらそう言うと彼は少し優しく笑った。
私は降谷零が好きだ。
開巻劈頭
物語の始まり
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作者名:雪野 | 作成日時:2019年5月20日 0時