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Episode28.群青のすべて ページ28

「それでは、そろそろお開きとしますか」

時計を見るともう午後四時を回っていた。
薬もない中でここまでギブアップしなかった自分を褒めながらも挨拶を済ませて玄関を出る。
夜風がやけに寒く感じて、出番はないと思っていたが万が一にと忍ばせておいたマフラーを巻いて歩き出す。

「ッ…」

目眩が襲い、脚に力が入らずそのままよろけて壁にもたれかかる。
もうこんな所、一生来たくないと子どものような感情が出てきて、何もかもに苛立ちを覚えた。
何も知らずに対抗意識を向けてくる女性に、大人にもなって中学生みたいなことを言ってからかう男性に、私なんて場違いだと醸し出すあのリビングに、そして…

「降谷さんのばか…」
「誰がバカなんですか」

降谷さんの声が後ろから聞こえて、振り向くと同時にもう力が出ずに後ろに倒れ込む。
「ありがとうございます」受け止めてくれた降谷さんにお礼を言うと、少し歩けますかと聞かれて頷くと駐車場まで来てそのまま助手席に乗せられた。

「あの…」
「熱があるなら早く言ってください」
「大丈夫です」

そう言うと彼はエンジンをかけながら私の額に手を置いた。
その手が冷たくて、熱くなった額には気持ちいい。

「大丈夫ならあんな道のそばで倒れないでください。家まで送ります」

もう何も考えたくない程、怠くてお言葉に甘えますと口を開こうとする前に重たく覆い被さる瞼を受け入れた。


「あれ…」

目を開けるとよく見慣れた天井、それから鼻腔に届く出汁のいい匂い。
上半身を起こすと台所から降谷さんが出てきた。

「…降谷さん?」
「勝手に上がらせてもらいました。起こしても気づかなかったので」

彼は机におじやがのったお盆を置くと私の前に座り、「薬、飲んでください」と薬局の袋から解熱剤を取り出した。
丁寧に封を開けて、錠剤を2粒出し水と一緒に私の前に差し出すのだから思わず面をくらっていると「何驚いた顔してるんです」と言われたのでお礼を言い受け取る。

「…ありがとうございます」
「では帰ります。鍋に残りもあるので良かったら食べてください」
「降谷さん」

彼を呼び止めると彼は振り向く。
その何気ないことがとても嬉しい。
さっきまで苛立っていた感情はいつのまにか、いつか感じた青苦い感情に変わっていた。

「私…降谷さんが好きです」

熱でちょっと頭が冷静じゃなかったのかもしれない。
口走って、きっとこの熱が下がればひどく後悔しそうだ。
なのに、この感情は本物だと叫ぶように頭の痛みがズキズキと波打つように押し寄せた。

Episode29.ロマンスのはじまり→←Episode27.エスケープエッジ



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設定タグ:名探偵コナン , 降谷零 , 安室透   
作品ジャンル:アニメ
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モモナ(プロフ) - 富岡さん» コメントありがとうございます!お返事遅くなってしまい申し訳ないです…。低評価がついてもそれは一意見として受け止めておりますし、面白いと思っていただける方に向けて更新しているので気にしておりません。優しい心遣い、応援、ありがとうございます。頑張ります! (2020年2月11日 1時) (レス) id: 9a07434cd3 (このIDを非表示/違反報告)
富岡 - なんか低評価の荒らしがいるかもしれませんね・・・応援してるので頑張ってください! (2020年2月5日 17時) (レス) id: 6a73ff0034 (このIDを非表示/違反報告)
モモナ(プロフ) - あやさん» コメントありがとうございます!安室さんの言葉遣い?って結構難しくて本当に謎大き男です…笑。応援ありがとうございます(*´ー`*)とってもうれしいです。頑張ります! (2020年2月3日 0時) (レス) id: 9a07434cd3 (このIDを非表示/違反報告)
あや - 今回の作品もさっそくハマりました笑 モモナさんの文才というか、なんというか、本当に尊敬します(え) モモナさんの書く安室さんや夢主ちゃんが好きです(*^^*) 更新大変だとは思いますが、頑張ってください! (2020年2月2日 18時) (レス) id: 95154b8388 (このIDを非表示/違反報告)
モモナ(プロフ) - 焼き鳥さん» コメントありがとうございます。新作ということで、不安もありますがもっと楽しんでいただけるよう頑張りますね! (2020年2月2日 16時) (レス) id: 9a07434cd3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:モモナ | 作成日時:2020年2月2日 13時

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