伍拾弐行目 ページ18
社内の自分のデスクの周りを国木田さんはうろうろ行ったり来たりと動き回っていた
落ち着いて座っては居られないようで、何とか座ってもずっとカタカタと貧乏揺すりを繰り返している
僕と潤一郎くんはそれに気づかない振りをしてパソコンに必死に向かっていた
国木田さんの足音しか聞こえなかった社内に、ピリリリリッと携帯電話の着信音が響いた
国木田さんが直ぐに携帯電話を開いて応答すると、僕の所まで敦くんの声が届いてきた
«「国木田さん!僕には無理ですあんな遣り方!」»
「……よく自分で気づいた」
国木田さんはひと安心したようにそう口にした
国木田さんはしばらく敦くんと携帯電話で話をしたあと、僕を呼ぶ
「藤村!賢治を迎えに行ってくれないか」
『…寝ちゃいましたか?』
国木田さんは無言で頷くと、僕に住所と店の名前が書いてあるメモ用紙を差し出した
それを受け取ると、国木田さんは眉間に皺を寄せたまま口を開いた
「敦もいる、迷うことは無いだろうが…くれぐれも問題は起こさんように」
『…はい』
賢治くんを迎えに行くのはいつもの事だった
苦ではない
賢治くんは僕の仲のいい友人だから
______________
「同棲なんて聞いてませんよ!」
翌日、探偵社の扉を開けようと取手に手をかけた時、敦くんの叫び声が耳をつんざいた
キーンとする耳を抑えながら探偵社の扉を開く
『…おはようございます』
「あら、おはようございます藤村さん」
ナオミちゃんがニコニコしながら僕に近寄って頭を撫でる
どうやらあの話はまだ残っているようだ
ナオミちゃんは僕を撫でるのに満足すると、僕の前に2つの袋を差し出した
右の方には煎茶、左にはほうじ茶と書かれている
「今日はどちらがいいのかしら?」
『……煎茶がいいな』
「んふふ、分かりましたわ!すぐにいれてきますから少し待っていてくださる?」
『…うん』
自分の席に座って敦くんたちの会話に聞き耳を立てていると、どうやら太宰さんが敦くんに相談もなしに鏡花ちゃんと住まいを共にさせてしまったらしい
同性ならまだしも異性同士を同じ部屋にしてしまう太宰さんも随分と思い切ったことをする人だ
「藤村さん、はいどうぞ」
僕の目の前を白い細い手が横切り、湯気のたった湯のみとその隣に小さな饅頭が置いてあった
『…これは?』
「以前の依頼者の方のお土産ですわ」
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名無し83958号(プロフ) - すっごく面白いです!更新を今か今かと待ち望んでます。頑張って下さい! (2020年4月28日 19時) (レス) id: 4a83a3e4ca (このIDを非表示/違反報告)
雨宮碧音(プロフ) - 虚さん» コメントありがとうございます!近々再び更新を再開する予定なので気長に待っていただければ幸いです! (2019年9月19日 18時) (レス) id: e732f79f93 (このIDを非表示/違反報告)
虚(プロフ) - え、なんこれドチャクソ好きです。更新頑張ってください! (2019年9月19日 17時) (レス) id: 7c0e52b0b9 (このIDを非表示/違反報告)
雨宮碧音(プロフ) - クロッキーさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけてとても嬉しいです…!頑張ります! (2019年5月27日 15時) (レス) id: e732f79f93 (このIDを非表示/違反報告)
クロッキー(プロフ) - めちゃくちゃ好きです………!更新頑張って下さい! (2019年5月27日 12時) (レス) id: 3248997e70 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雨宮碧音
作成日時:2018年9月21日 1時