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伍拾行目 ページ16

諭吉先生が応接間を出たも、僕はソファに座ったまま俯いていた

動く気になれず、くるくるも人差し指を回しながらぼうっと座る

ピリリリッ

胸元から携帯が着信を知らせてぶるぶるとなり始めた

僕の携帯に連絡を入れるのは探偵社の社員と”彼女たち”だけだ

今は探偵社にいるから、たぶんかけてきたのは…

僕は胸元から携帯を取り出し、応答のボタンを押して耳にあてがった

聞こえてきたのは予想通り、彼女の声だ

『…はい』

〈「こんにちは、藤村くん」〉

『…こんにちは』

彼女は電話の向こうでクスリと笑った

その後ろでぎゃあぎゃあと騒がしい声が聞こえる

〈「うるさくてごめんね…どっちが先に電話するかって喧嘩してるの」〉

『…そっか』

〈「………ねぇ、藤村くん」〉

『………なあに…?』

〈「次はいつ帰ってこれそう…?」〉

『…………』

『…わからない』

〈「……そう」〉

帰る…………か…

前回行ったのは半年かそれより前だっただろうか

彼女からいつ帰るのかと連絡が来るのはもう数十回目(だと思う)

そろそろ帰るべきだと、僕も思っていた頃だった

けれど………鏡花ちゃんのこともあって下手に休むことが出来ない

鏡花ちゃんの件が片付いたらすぐに行けるようにしよう

いつになるかは、分からないけれど

〈「…待ってるからね」〉

『…うん』

〈「君は私たちの”恩人”だよ それに変わりはないからね」〉

『…………』

〈「…じゃあ、次は会った時に」〉

『…うん』

彼女たちの為にも、仕事はしなければ

僕と違って未来のある彼女たちにはお金が必要だから

僕は通話の切れた携帯電話を懐にしまい、ばしんっと頬を叩いて応接間を出た

どんなこともやってやろう

たとえ相手が、酷く畏怖を覚える相手であっても

探偵社のために、ヨコハマのために、彼女たちのために

拭いきれない嫌な予感は、どれだけ自分自身を鼓舞してもぬるぬるとまとわりついて離れなかった

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名無し83958号(プロフ) - すっごく面白いです!更新を今か今かと待ち望んでます。頑張って下さい! (2020年4月28日 19時) (レス) id: 4a83a3e4ca (このIDを非表示/違反報告)
雨宮碧音(プロフ) - 虚さん» コメントありがとうございます!近々再び更新を再開する予定なので気長に待っていただければ幸いです! (2019年9月19日 18時) (レス) id: e732f79f93 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - え、なんこれドチャクソ好きです。更新頑張ってください! (2019年9月19日 17時) (レス) id: 7c0e52b0b9 (このIDを非表示/違反報告)
雨宮碧音(プロフ) - クロッキーさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけてとても嬉しいです…!頑張ります! (2019年5月27日 15時) (レス) id: e732f79f93 (このIDを非表示/違反報告)
クロッキー(プロフ) - めちゃくちゃ好きです………!更新頑張って下さい! (2019年5月27日 12時) (レス) id: 3248997e70 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:雨宮碧音
作成日時:2018年9月21日 1時

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