できることー御幸サイドー ページ5
高島「やはり中々痛みが取れなくて…肩の石灰を砕く治療をしました」
御幸「…！？」
誰にも言わず治療に耐えていたことを知った
俺が部屋を出た後、監督室にきたAを片山監督は治療後だからと帰らせたらしい
倉持「やめとけ。またあいつは隠すぞ。…何もなかったかのようにな。」
みんなが自主練に向かう中、ひとり違う方向へ向かおうとする俺を倉持は止めた
倉持「怪我してないお前が行くことで惨めな想いさせて、また傷付くかも知れねーんだぞ？」
こいつの言っていることは間違っていない
やすい慰めは通用しない
御幸「分かってる。でも放っておくことはできない。」
そのあとは倉持は何も言わなかった
今晩は少し寒さを感じる
御幸「いた…」
やっぱり家には帰っていなかった
誰もいない土手でAは座り込んでいた
その背中はとても小さく見えた
Aのところへと土手を降りていくと
A「疲れた…」
御幸「…！？」
ポツリと呟いたか細い声
御幸「肩冷えるぞ」
俺の存在に気づき、振り向いたAは今にも泣きそうな顔をしていた
A「…礼ちゃんから聞いたの？」
その顔を隠すようにまた前を向いた
御幸「礼ちゃんが帰った時、監督室に俺もいたんだ」
A「そっか…」
ｻﾜｻﾜ…
風に靡く草の音が虚しく聞こえる
A「石灰を砕いても痛みはすぐ治るかも知れないし数年続くかも知れないってさ」
淡々と話し始めたAは人ごとのようだった
A「やっと永田先輩に強くなったねって認めてもらえたのに…私たちに託してくれたのに…」
途切れ途切れに繋ぐ言葉は苦しさが滲み出ていた
A「ごめん、御幸…やっぱり私もう無理かも知れない」
Aの肩は震えていた
初めて見せたAの限界
弱気な自分を
数多く流してきた涙を
誰にも見せなくないだろう
だったら…
A「怪我を抱えて、思うようなプレーができないあんたを見て、勝つことを願うより
…あんたの体が心配だった」
秋大の後俺に言ってくれた
あの時、Aがどんな気持ちだったのか今なら分かる
怪我を代わってやれることもできないけど
ｷﾞｭ…
A「…！？」
御幸「俺は見えないし、誰にも分からないように隠してやるから…今は沢山泣け」
俺がお前の涙を受け止める
それが俺が唯一できることだから
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作者名：春春 | 作成日時：2021年9月29日 22時
