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「そんな可愛い顔やめてぇや、そんなん、見たこと無い……」
ぎゅう、と握られた手は熱い。
切なく、彼にしては珍しい小声で囁かれた言葉は熱っぽく、ゆっくり近づいてきた顔はそのまま私の唇と重なった。
重なった手を見ていた私の視線をすくい上げるように押し付けられたロボロ君の唇は言葉と同様に熱くて、控えめに重なった唇は長い間離れなかった。
恥ずかしくて閉じた瞼を恐る恐る開くと、言葉と同じように熱を送ってくる視線が交わる。
潤んだ瞳は、じっと大切な物を見るように射抜いてきて。
そのままゆっくりと、ゆっくりと離れた顔は少しずつ正気を取り戻していくのがわかった。
「……俺、何した……ん……?」
「こっちが聞きたいねんけど……」
「う、あ、ちゃう、ねん」
「私のファーストキス……」
慌てたように立ち上がり、ちゃうねん、ちゃうねん、と繰り返す彼にどうしてそんな事をしたのか聞きたかった。
でもそれを聞いてもきっと返ってくる言葉は私が期待するようなものでは無いだろうし、私も突然ファーストキスを奪われてそんな冷静ではない。
「あー、取り合えず、いい加減な気持ちでしたわけちゃうから!」
「え? どういう」
「こ、これ、折り畳み傘貸すわ! 返すんはいつでもええ!」
「じゃあロボロ君はどうするの」
「男は黙って走るんや!」
じゃ、また明日な!
そう言い残して彼は分厚いカーテンから飛び出して行った。
気まずい空気から逃げた、ともいう。
向こうの空は先ほどより明るくなっており、きっと私の心臓が落ち着く頃には雨も止むだろう。
ああ、ロボロ君が貸してくれた傘、どうしようかな。
傘を見るたびにさっきの事を思い出して心臓が跳ねてしまう。
掛けてくれたジャージも洗わなきゃ……明日ちゃんと返せるかな、学校でちゃんと普段通りに出来るかな。
今日の事はロボロ君と私、二人だけの秘密。
でも私は無かったことにしたくないな、彼が言った言葉の真意が知りたい。
いつの間にか雨のカーテンは姿を消し、空には淡い虹がかかっていた。
雨上がりのそれは、恋の始まりをキラキラと彩っていた。
End.
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作者名:すこ | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/home
作成日時:2022年3月9日 11時