カーテンの内側/rb ページ8
学校からの帰り道、予期せぬ夕立に襲われてしまった私は傘なんて持っておらず、走って雨宿り出来る所に避難した。
ここは以前バス停として使われていた小さなスペース。
大人が二人座れば隙間なんて無くなってしまう小さなベンチが一つだけ置かれている。
小さい頃は親とここからバスに乗ったこともあったっけ。
でも田舎過ぎてもうバスも停車しなくなっちゃったんだよね。
とりあえず濡れた体をタオルで拭いていると、見知った顔が通りかかった。
「あれ?」
「……ロボロ君?」
「Aさん、こんなところで何しとるん?」
小さな傘を差して歩いていたのは、クラスメイトのロボロ君だった。
彼とは小、中、高と同じ学校だが、特に親しい関係ではない。
それは彼がクラスの中心の子たちと仲が良く、私はクラスの端っこに居るから。
長い時間一緒の空間に居るからといって、親密になるわけではないのだ。
そんなクラスメイト、というか寧ろ知人レベルの彼は傘を閉じて隣に座ってきた。
ぱしゃっと閉じられた傘を見て、それが折り畳み傘なのだと気づく。
決して彼が小さくて折り畳み傘が普通の傘に見えたわけではなく、こういう事を予想して折り畳み傘を用意する人だとは思っていなかった。
「うわ、びしょ濡れやん」
「うん、走ったんだけど濡れちゃったんよね……私も折り畳み傘常備しとけばよかった」
「まあ普段から入れとく習慣が無いと忘れがちよな、今日は特に天気予報でも降るなんて言っとらんかったし」
「天気予報とか見るんや」
「そら見るやろ、俺の事どんな男やと思っとん」
そう言い鞄を漁ると、学校ジャージを取り出して私の肩に掛けてくれた。
私のよりワンサイズ大きいのか、いつものより暖かく感じる。
「……あ、男のジャージなんて嫌やった!? 臭い!?」
「ううん、ありがとう。温かくて助かる」
「よかった……あんま嗅がんでな、今日は着てへんけどもしかしたら汗の匂いとか染み付いてるかもしれへん」
「全然せんよ、柔軟剤の香りがする」
大丈夫と笑いかけるとロボロ君も安心したのか、視線を正面に向けて小さくため息を漏らした。
先ほどより強くなった雨はまるで透明な分厚いカーテンのようで、雨音の内側のロボロ君の吐息やジャージの擦れる音がいつもよりはっきり聞こえて、この空間にふたりぼっちなのだと強く実感する。
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作者名:すこ | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/home
作成日時:2022年3月9日 11時