【d!】春宵【短編集】 (ページ46)

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おわらせたくない/ut ページ46

「触れないで」

　彼女は髪を揺らし僕から遠退く。距離を取られたのに嫌な気がしないのは、その動作も美しかったから。

「でも、ちょっとだけやで？手を握るくらいは許して欲しいわ」
「ダメ、だって鬱くん下心見え見えなんだもん」
「あちゃー、」

　下心があるように見えるのは、きっと僕の素行が悪いからなんだろう。普段から色んな女の子にちょっかいをかけ、遊び、そして簡単に離れる。それを側で見ていた君はすっかり信じ込んでいる。
　僕は不純な生き物だって。

「何で鬱くんは私の事口説こうとするの？」
「そら、可愛いからに決まっとるやろ？」
「……自分で言いたくないけど、鬱くんの周りの女の子より可愛くないよ。つるぺただし、肌もそんなに綺麗じゃないし、性格だって」
「自己評価が低いのはアカンなぁ」

　触れる許可は得られなかったので、隣に座って彼女を覗き込む。幼さの残る大きな瞳も、ぷっくりしてる唇も、不安がるその内面も僕には可愛いのに。

　でも、不純な僕に何を言われても嬉しくないのかもしれない。彼女はそれぐらい純粋で、綺麗で、ほんの少しだって穢れていない。本当は僕が近づいちゃいけない子だ。

「でもね、本当は私鬱くんがここに来てくれるの、嬉しい」
「やろ？じゃあせめて手ぇぐらい繋ごうや」
「悲しくなるからダメ、もっとお話しよう？鬱くんの事もっと知りたい」

　子供のように笑った彼女に、今日あった出来事を三割盛って話す。といっても、僕の日常なんてそこらへんの深夜ドラマよりつまらない、平々凡々な暮らしだ。普通の女の子ならあくびが出ちゃうだろう。
　それでも君は最後まで、楽しそうに聞いてくれるね。そういうところが可愛いんだよ、と言ったら怒って笑わなくなっちゃうのかな。そうしたら、脇でも擽って強制的に笑わせてしまおうか。

「鬱くんも面白いけど、周りの人も面白いね。類は友を呼ぶってやつかな？」
「お、難しい日本語知っとるやん」
「バカにしないでよね」

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