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先回りしたゾムさんが、手を広げて彼女を抱き締めようと立ち止まった。
その表情といったら、まるで恋する乙女そのものだ。
普段の鋭い眼光は暗闇に溶け、口角はきゅっと上に上がっている。
そのふやけきった無防備な顔目掛けて、彼女の長く綺麗な足が直撃した。
「うるさい! なんて言われようと貴方たちの仲間になんてなりませんから! 失礼します!」
ゾムさんの側頭部に重い一撃が入る。そのまま横に蹴り捨てられ、彼女は夜闇に紛れ消えてしまった。ああ、今回も同じ結末だった。
「わざとやってます?」
「……イテテ、そんなわけないやろ、いつも本気や」
「でも蹴られるのは?」
「おいしい」
一瞬パンツが見えんねん、なんて頬を染めて話す雇い主に、大きなため息をこぼした。もしかしたらそんな視線も彼女は気付いているのかもしれない、だから我々の気持ちに答えてくれないのかも。
「てかエミさん、よくあの路地にアイツが来るってわかったな」
「彼女の仕事の情報を手に入れましてね、行動パターン諸々を考えてあそこで待ってましたが、本当に通ってくれて良かったです」
「お前の方がキショいストーカーやん、なのになんで俺の顔よりエミさんの顔の方が好きやねん、おかしいやろ、俺の方がモテんのに……」
彼女を見失った我々は仕方なく自分達の拠点へと帰る。もしかしたら、この大きすぎる恋愛感情すらも彼女に伝わってしまっているのだろうか。よく知りもしない男二人に好かれて、気持ち悪いと思っているのだろうか。だったら殺せばいいのに。
可哀想な彼女。我々は欲深く、執念深い。世の中の正義や常識とは一番離れたところにいる。欲しいものは何をしても必ず手に入れる、そういう男たちだ。
次は必ず捕まえて、私たちの物にしますからね。それまでどうぞ、精一杯抵抗してみせてください。
End.
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作者名:すこ | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/home
作成日時:2022年3月9日 11時