闇夜で踊ろう/em.zm ページ40
潜入、情報収集、ターゲットに接近、暗殺。私の仕事は至ってシンプルで、それでいて奥が深い。
何に変装するのか、どういった形で潜入するのか。自分という人間を熟知していないと、完璧に紛れることは出来ないのだから。
「ほら、早よ帰ろうや、殺したんやろ?」
「ええ、ですが少しお待ちください。流石に返り血で汚れたまま外に出るのは……着替えを向こうの路地に用意してるので、まずはそこに寄りましょう」
隣で笑うのは私の上司、ゾムさんだ。彼は何も取り柄のなかった私を拾い、立派な暗殺者に育ててくださった恩人だ。私の冴えない見た目から同業者には良く言われていないようだが、ずっと捨てずに側に置いてくれている。
私は彼の役に立ちたい。私には彼しかいないのだから。
……いや、もう一人いるか。
「あーあ、ここら辺にもおらんかったな、アイツ。仕事中一回も見かけへんかった」
「そろそろ会いたいですね。今日は誰を殺しているんだか」
ゾムさんと私しかいなかった日常に、ふと現れた女性がいる。彼女は同業者で、どこの組織にも属さないフリーの殺し屋だ。故に情報も少なく、どうすれば彼女に依頼出来るのかも不明。
秘密が多い女性ほど、魅力的だと思いませんか? 私は初めて会った時から心を奪われています。
「着替え終わったやろ? そろそろ暗殺に気付かれても可笑しくないし、ホンマに帰ろ」
「もう少し、もう少しだけ待ってください」
「なんや、ここに何かあるんか?」
「……上を見ていてください」
日没から丁度六時間、真っ暗で人通りもないこんな路地裏の、上。
薄汚い屋根の上を、小さな影が一瞬通りすぎた。
本当に一瞬で常人には何が通ったのかわからないだろう。
けれど、この人ならわかる。
私と同じく心を奪われている、ゾムさんなら。
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作者名:すこ | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/home
作成日時:2022年3月9日 11時