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でももしかしたら。一人になりたくなくて踠いていただけかもしれない。
「ほら、そろそろラムネ飲まんと帰れへんよ」
『え……だってこれ、間接キス』
「それぐらい平気で出来る間柄になろうって誘ってんの、わからへん?」
『わかんないよ、どういう間柄?』
「えぇ? ……唯一無二?」
唯一無二の関係になろう、なんて誘い方下手すぎない? つまりどういうこと?
直接言ってくれないと、頭の悪い私にはわからないよ。
どうすればいいかわからず宙に浮かんだ右手は、コロコロとビー玉を揺らしている。
その瓶を掴み、無理やり私の口に持っていこうとする大きい手。
「いきなりキスすんのは可哀想やから間接キスで止めといてやってんねん」
『はぁ!? キスしたら殴るからね!?』
「犯罪せんで済んだのは誰のお陰ですかぁ?」
『ぐっ……』
強引にラムネ瓶を口に当てられ、残りの中身が流れ込んできた。
さっきまで美味しく感じていたのに、今はよくわからない。
初めての間接キスなんだもん、恥ずかしいし顔だって真っ赤になっちゃうよ。
そんな涼しい顔しないでよ、私だけ恥ずかしがってるの、滑稽じゃん。
「はい、これで今日からふたりぼっち、な!」
『……それって、つまりどういう事? 友達や先生には言えない関係? 私何にも出来ないけど』
「別に言ってもええけど? なに、そういう事期待しちゃったん?」
ニヤニヤする目の前の男に反論したかった。
でも口から出たのははくはく、と言葉にならない空気だけ。
「さ、帰ろか。明日からはきっと、これまでより楽になる」
私の手からラムネ瓶を取り、代わりに自分の手を重ねた。
すっかり暗くなった街はやわく街頭が灯り、夜風が私の髪を弄ぶ。
前を歩く彼の表情はまた見えなくなったけど、瓶で冷えた手が彼の体温で暖められていくのはわかった。
この暖かさを信じていいのだろうか。
私の居場所は、この男の隣なのだろうか。
いくら考えても暖まりすぎた私の頭じゃわからなかった。
次の日から、事あるごとにチーノに呼び出されて毎日が忙しく輝き出す……のは、また別の話。
End.
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作者名:すこ | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/home
作成日時:2022年3月9日 11時