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しかし、無理矢理持たされた瓶はとても冷えていて美味しそうだ。
そこで初めて自分の喉がカラカラに乾いている事に気づく。
無意識に呼吸が荒くなっていたんだろうか。
外の乾いた空気のせいだろうか。
隣の男が怖いから、だろうか。
「まあ、明日からちょっと頼み事が増えるかもしれへんな」
『ほらやっぱり』
「もしかしたら、友達と居られる時間も無いかもしれへんなぁ」
『どれだけ呼び出されるの、私』
「同じクラスやったら良かったのに」
『同じクラスじゃなくて良かった』
ぐび、ぐび、冷たいラムネが喉を通って胃に落ちる。
心地よい炭酸の刺激に頭が冴え、今のチーノの言葉に違和感を感じた。
もしかして、それってもしかして。
『……やだ、どれだけ貸しを作ろうとしてるの。言っとくけど私お金無いし、スタイルも良くないし、返せる物なんて何も無いからね』
「なんの話?」
『私の事助けようとしてるんでしょ? あの子から遠ざけようとしてるんじゃないの?』
「あちゃー、ばれたか」
彼は飲みきって空になったラムネ瓶を手で弄びながら、わざとらしく反応する。
この男はこうやって、世の中を渡ってきたのか。
器用だな、羨ましいな。
きっとチーノはひとりぼっちになった事なんてないんだろうな。
反応が薄い私に対してわざとらしい笑顔をやめたチーノは、ゴミ箱であろうプラスチックのケースにラムネ瓶を捨てた。
中のビー玉が大きな音を立てて転がる。
「ひとりぼっちでええ、と思わんか」
『思うわけ無いでしょ、寂しいじゃん』
「じゃあふたりぼっちになろ」
飲みかけのラムネ瓶がコロコロと音をたて、彼の手に奪われる。
そのままぐびっと一口飲んで、何事も無かったかのように戻ってきた。
私のラムネ、とか、間接キスだ、とか色々考えてしまって言葉が出てこない。
「また不細工な顔になってんで」
『だ、しょうがない、じゃん、なにすんの』
「ずっと思ってた事や。お前浮いてるし、俺も周りに何となく馴染めへん。Aとふたりぼっちになれたら、学生生活楽やろなーって」
意外な言葉に驚き、今までの彼を思い出してみる。
チーノは隣のクラスで、よく大先生とショッピと一緒にいる男だ。
大先生とあの子が付き合っていて、私とはたまに顔を合わせて軽く喋るくらい。
色んな人と仲が良く見えてたし、人を選んで媚を売って、上手く生きる人だなーと思っていた。
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作者名:すこ | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/home
作成日時:2022年3月9日 11時