【d!】春宵【短編集】 (ページ32)

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　ジリジリとスマホが鳴る。
毎日同じ時間に設定してある目覚まし機能を止めて、また一人用のベッドに大の字になる。
今日も仕事だ、朝の支度をして家を出なきゃ。
寝ぼけたまま起き上がって、ふと違和感を覚える。

『コ、シャオちゃん？』

　幸せだった昨日の記憶は何一つ忘れてない。
彼と再会して、お話しして、一緒に眠りについた。
絶対現実だ、だって部屋にはお日様の匂いが満たされている。
でも、彼がいない。

『シャオちゃん、シャオちゃん！』

　こう呼んだらきっと嬉しそうに顔を出してくれるはずなのに、私の部屋は変わらず朝の静寂だけがある。
昨日の幸せは全部夢じゃないのに。
二人分のグシャグシャになったバスタオルも、適当に食べた夕飯のゴミも放置されてるのに。
なのになんでここにシャオちゃんが居ないの。

　あー、今日はダメかもしれない。
悲しくて仕事なんか行けないや。
休む連絡でもしようかな、とりあえず上司の電話番号を眺めようかな。
なんてスマホを見る。

　すると、スマホの横にレシートが裏返しで置いてあった。
しかも細く黒いペンで何か書いてある。

　こんなところに置いた記憶ないけどな、メモでもしたっけ。
拾い上げてよく見てみると……それは、下手くそなりに頑張って書かれた、またな、の三文字。

　これは、シャオちゃんの字だ。
書けないのに頑張って見よう見まねで書いてくれた、再会の約束だ。
力加減がわからなくてプルプル震えた線、必死に一文字一文字書いて向きがバラバラな三文字、全てが愛しくて笑みが溢れる。

　シャオちゃんは確かにここにいて、私を抱き締めて寝てくれた。
その幸せは、愛は現実だ。
こう書いてくれているんだから、次は私から会いに行っていいよね。
さぁ今日もお仕事頑張るぞ、そして終わったらあの神社に行って、こっそりとシャオちゃんを探すんだ。

　もう大丈夫、私はシャオちゃんを忘れない。
抱き締めた枕の、お日様の香りを一生忘れない。

End.