【d!】春宵【短編集】 (ページ31)

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「今日は暇つぶしに街で遊んでたんよ、見える人間に見られてもええように人間の成人男性に変化して、耳と尻尾を隠して。でも、Aを見かけたらあの頃の気持ちがぶわぁって蘇って……何も考えずに走っとった」
『……ごめんね、忘れちゃってて、ほんとうに、ごめん』
「泣くなって……俺ら本当は出会っちゃいけないんやし、忘れるのが正解や。俺も、親父に言われてたし」

　罪悪感がついに目蓋から溢れだし子供のように泣いてしまった私を、落ち着かせるようにぎゅっと抱き締めてくれるコンちゃん。
懐かしい温もり、太陽の香り。
ぐりぐりと頭を押し付けて慰めてくれる優しさにまた涙が溢れる。

　私が忘れずに毎日神社に通っていたら、コンちゃんとの楽しく不思議な毎日を過ごせていたんだろうか。
こんなにあったかいコンちゃんを忘れるなんて、私はなんて薄情なんだろうか。

『しゃおろん』
「お、ついに名前で呼んでくれるん？」
『……シャオちゃん、がしっくりくるなぁ』
「俺もうこんなに体でっかくなったんやけど、まだちゃん付けなんか」
『コンちゃんはちゃんが付いてる方がしっくりくる』
「あ、コンちゃんって言ったな」
『あ』

　瞬間、脇の下に手を突っ込まれくすぐり攻撃が始まる。
彼の手は細く大きく、とにかくくすぐったかった。
涙が引っ込むほど大笑いし、やり返そうと伸ばした手は捕まってしまう。
そのまま優しく抱き締められ一緒にベッドに潜った。

「あったけぇ……今日はよく眠れそうやな」
『え、このまま寝るの？一緒に？』
「久しぶりに会えたんやからええやろ、ほら、しっぽ触ってええから」

　彼に抱き締められ、彼のしっぽを触りながら目蓋を閉じた。
そうするとここはもう大人になった私の部屋のベッドではなく、あの頃二人で昼寝をした神社の木陰だ。
そよ風が吹き、蝉が近くで歌い、太陽がゆるく私達を照らす。
なんで忘れていたのか不思議なくらい、楽しい思い出が浮かんでは心を満す。
今日は、あったかい夢が見られそうだ。

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