微糖/sha ページ4
「おう、偶然やな! こっちこっち!」
「シャオロン先輩……」
「Aも休憩? コーヒー奢ってやるよ」
広いオフィスの、数ある休憩室の一つ。
私がいつも使っているそこに高確率で居るのは他部署の先輩だ。
前は同じ部署で一緒に仕事をしていたが、先輩が他県に転勤してしまってから音信不通だった。
それがある日ひょっこり顔を出したのだから、少しばかり塩対応になってもいいと思う。
「ほい、これやろ」
「……これコーヒーじゃなくてカフェオレですよ」
「だいたい同じやん」
奢ってもらってこんな態度なのはよろしくない、そんな事はわかっている。
でも、奢ってやるよと私に背を向け小銭を投入し、迷わず昔好きだったカフェオレを買うんだから困った人だ。
そんな前の事まで覚えているこういうところが、シャオロン先輩のきらいなところ。
「あっま」
「わがまま言ってんちゃうぞ、俺のコーヒーが飲めへんっちゅうんか」
「私、もう微糖派になったんで」
「え、どれどれ?」
これです、と今愛飲している缶コーヒーを指さすと先輩は、ほお、へえ、お前も大人になったっちゅうことか、なんて顎に手を添えてわざとらしく言う。
今も昔も大人だし、その時はカフェオレのブームが私の中で来てただけなのに。
先輩の中の私は一体どのあたりで止まっているのだろう。
「そんな事より」
「え?」
「ネイル剥がれてんで?」
「げ」
「A休んどるん? また休日出勤ばっかりしてんちゃう?」
「ここ最近業務の量がえげつなくて、仕方ないじゃないですか」
休まなきゃいけない事もわかっている。
休日には美容院に行って、ネイルサロンに行って、ちょっといいものでも食べたいなあとか思ってはいるんだ。
でも現実は厳しくてそんな休日が後一か月は来ない事を薄々察している、それぐらい私は会社に染まったし、大人になった。
でも、転勤してから一回もメッセージに返信してくれなかった先輩に言われたくはないよね。
私は何回か、しつこくならない程度に送り続けていたのに。
既読さえも付かない画面を見続けるのは精神的にくるものがあった。
そんな先輩にそんな事を言われて正直頭に来たので、私は少しだけ皮肉を言ってやろうと思います。
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作者名:すこ | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/home
作成日時:2022年3月9日 11時