【d!】春宵【短編集】 (ページ29)

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「わかった、じゃあ尻尾触ってええよ、これ好きやったもんな」
『えっいいんですか』
「お前だけ、特別な」

　見知らぬ男性に言われて普通の人は引くか逃げるんだろうけど、私の心は素直に喜んでしまった。
それには深くない理由がある。
私は何よりもケモ耳と尻尾が好きだ。
アニメでイケメンにそれが付いていたら無条件で推してしまうほどに、フェチだ。
いつから好きなのか覚えていないくらい、一途にモフモフが好きなのだ。
だからしょうがない、イケメンに触っていいよなんて尻尾を差し出されたら、断れないに決まってる。

『うわぁ、もふもふだぁ』
「はは、だらしねえ顔」
『だって好きなんだもん、んーこのもふもふ、最高』
「んっ……くすぐったいからあんまりこねくり回さんで」

　顔を赤くしながら少し体を捻りそういう彼は、それでも笑っていた。
その顔に、ぽんっと記憶が浮上する。

『あ……コンちゃん！』
「だからシャオロンやって！」

*

　彼がシャワーから出てくると、石鹸の香りとお日様の香りが部屋を満たす。
それが懐かしくて嬉しくて、乾かしたばかりであろう尻尾に手を伸ばす。
もう少しで手が届く所で身を翻され、伸ばした手は空気を掴んだ。
驚きコンちゃんを見ると意地悪な顔でこちらを見てくる。
ああ、あの時と同じ顔だ。

「もうダメです触らないでくださーい」
『なんでよ、触りたいよ』
「だって俺の事全然思い出してくれへんかったやん」
『ごめんってば、だってコンちゃんと遊んでたの幼稚園の時じゃん！流石に覚えてないって！』
「俺は成長しとったお前の姿でもすぐにわかったのになぁ」
『コンちゃ～ん』

　わざとらしく拗ねた顔でしっぽを体の後ろに隠してしまったコンちゃん。
大好きな彼の懐かしい仕草に、思わず顔が緩んでしまった。

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