お日様の香り/sha ページ28
※人外
*
「なあ、今日泊めてや」
突然の雨に濡れ、家まで走って帰ってきたその時後ろから声を掛けられた。
さっきまで人の気配なんてしてなかったのに、いつの間に?
いきなりの事に驚いて振り返ると、見知らぬ男性が雨に濡れながらこちらに近づいてきた。
「急に声かけたのはごめんって、でも頼れるのアンタしかおらんねん」
『だ、誰ですかあなた……』
「……えー、ショックやわぁ、オレの顔見てもわからん?」
語尾を伸ばし笑いながらそう言われて、改めてまじまじと見る。
パーカーのフードを被っていてわかり辛いけど、明るい茶髪に同じく明るい黄色がかった茶色の瞳。
こんなイケメン一度見たら忘れないけどな……どうしよう全然わからない。
もしかしたら知り合いのふりをした変質者かもしれない、最近は物騒だし警戒するに越したことはないよね。
言葉だけで穏便に済むように祈りながら、お断りの返事をしようとした。
しようとした私の視界に入ったのは、男性の後ろでゆらりと揺れる影。
いや……これは見覚えがあるぞ、私の好きなアニメで何回も見たことがある、モフモフだ。
『しっぽ……!?』
「ああ、隠してたのに出ちゃったか」
『何で尻尾なんて付いてるんですか? コスプレですか?』
「ちゃうよ、本物! ……こっちも見せた方が早いか」
男性は濡れて重さが増したフードをゆっくりと、焦らすように取る。
あーさみぃ、なんて身震いして出てきたのはフードの隙間から見えていた明るい茶髪と、ピンと立った三角の耳。
それは明らかに人間の耳ではなく、しっとりした髪の毛の間から辺りを警戒するように立った耳はピクピクと動いている。
嘘、この人、人間じゃない。
「な、とりあえず家に入れてや、寒くて風邪ひくやん」
『人間じゃない人をホイホイ家に入れていいのかな……』
「そこは、初めて会った男をホイホイ家に入れてええんかな、やろ」
『あ、そっか』
「抜けてるところは変わらんなぁ、はは、ちょっと嬉しい」
ふふ、と声を漏らして笑う目の前の男の人に、何故か既視感を覚えた。
耳と尻尾が生えてるイケメンなんて絶対忘れないのに、どうして?
向こうは私の事を知っているようで、悩んでいる私の顔を見ながらいつまでも笑っている。
まだ思い出さへんの? 記憶ガバやない?
なんて言われたって本当に覚えてないんだからしょうがないじゃない。
この人ちょっと、意地悪だ。
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作者名:すこ | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/home
作成日時:2022年3月9日 11時