【d!】春宵【短編集】 (ページ26)

今日:10 hit、昨日:20 hit、合計:5,842 hit

. ページ26

たはは、眉毛を下げながら笑う彼女を思わず二度見した。
なん、なんて言った！？
いやそんなはずない、俺が一方的に好きだっただけで、彼女はそんな素振り全くしてなかったじゃないか。

「もう時効だから言うけど、あの頃私鬱くんの事好きだったんだよ。秘密基地で何となく手を繋いだり髪の毛触ったり、ちょっとしたことでドキドキしてたんだから」
「ほん、ま？そんな素振り、無かったやん」
「気がある素振りが出来るような女じゃないもの、私」
「俺やって好きやったよ、よく言うとったやん」
「……言う勇気があったらよかった。そうしたら、私は今もこんなに悩んでなかったのに」

　俺の手を掴もうとして、掴まず手を自分で抱きしめた。
そんなところも可愛くて愛しいけど、だからといって俺から手を握ってしまうのは違う気がする。
俺は彼女に手を握ってもらいたい。

「言うて？明日は仕事も休みやし、たくさん話聞くで」
「……鬱くんならいいか」
「何系の話？なんでも聞くけど」
「私ね、誰かに必要とされたいの」

　私という人間を、ただ一人に必要とされたいの。
そう言った彼女の顔はとても悲しみが似合った。
増した色気が影となって、夜の闇に溶けていく。
きっと俺の知らないところで、知らない人間と色んな事を経験してきたんだろう。
もしかしたら俺よりすごい事を経験しているのかもしれない。

「ただ真面目に学校に行って、大学を出て、就職して。大人になれば自然とパートナーが出来るものだと思ってたの。でもね、何の面白みもない私が社会で誰かに気に入られるなんて、そんなのは幻想だったんだよ。おかげでいい歳して誰にも触ってもらえてない。手を繋いだのだって、さっき鬱くんとしたのが久しぶり」
「さ、わ……」
「この年で処女なんて、普通ドン引きだよね。でもいいんだ……」

.