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路地裏/zm ページ20

『やめてください! 来ないで!』
「チッ、騒ぐな」
『やだ、いやぁ!』


 可愛い黒猫を追いかけ迷い込んだ路地裏。
いつもの大通りから一本入っただけの、いつも過ごしている街の中のはずなのに。


「大人しくしろ!」
『や……だれか……!』


 そこはまるで別の国のような空気だった。
テレビの中でしか見たことのない、真っ暗で淀んだ深海のよう。
その暗闇の中で唯一ギラついた眼光が、よそ者の私を貫いてくる。

 猫も見失ったし、帰ろうと振り返るとそこには見知らぬ男が立っていた。
いきなり腕を伸ばして私を捕まえると、もっと奥へと引きずって行こうとする。
怖くて逃げようと手を振り払っても、またすぐ伸びてくる腕が私をここから逃がしてくれない。


「無駄だ、ここに入ってきた時点で助けなんて来ない」
『いや、いや……!』


 両親の結婚記念日に贈るプレゼントを探しに来ただけなのに。
見つけた可愛い猫を追いかけただけなのに。なんでこんな事になってしまったのか。

 転んで擦りむいた膝を見て、これから自分の身に起こる事を想像した。
嫌だ、怖い事も痛い事も嫌い、ここで命を落としたくもない。
助けが来ないとわかっていても手を伸ばす事をやめられなかった。


『や、だ……! 誰でもいいから助けて!』
「ん? 呼んだ?」


 突然私を掴んでいた男とは違う声が聞こえ、そちらを振り向くとさっき追いかけていた黒猫が居た。
ちょこんと路地の真ん中に座って私を見つめている。
なんでここに猫が? 見失ったからてっきりもう大通りに行ってしまったのかと思った。

 そんな事を考えていると、ふと自分の体が軽い事に気が付いた。
いつの間にか掴まれていた腕が自由になっている。


『え……?』
「だめやん、女の子がこんなところで一人になっちゃあかんよ」


 ばっと黒猫を見るが、当然猫が喋っているわけもなく首をかしげている。
そうだよね、猫が喋ったなんて、なんでそう思ったんだろう。


「ネコ、好きなん?」


 にゅっと視界に入ってきたのは、先ほどの男とは別の男。
パーカーのフードをかぶり顔が見えないその姿はさっきの男よりも怪しく見えた。


『や……!』
「え、酷いやん、助けてやったのにその態度は傷つくわー」




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作者名:すこ | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/home  
作成日時:2022年3月9日 11時

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