【d!】春宵【短編集】 (ページ13)

今日:18 hit、昨日:0 hit、合計:5,830 hit

約束は果たせない/ci ページ13

「ねえチーノくん！わたしたちもおとなになったら、あそこにふたりでならぼうや！」
「ええ？あそこって、はなよめさんとこ？」
「そう！わたしあのキラキラしたドレスきるから、チーノくんはあのかっこいいふく、きるんやで！」

　オレには将来を約束した女の子が居た。
幼稚園児同士の可愛いらしい約束。
二人で遊んでいる時、たまたま通りかかった教会で結婚式をしていて、木陰から二人で盗み見ていた時の口約束。
でもあの子はきっとオレと結婚したかったんじゃなくて、ウェディングドレスが着たかったんだろう。

「わあ、きれいなくつや……」
「え？くつみえた？」
「ちょっとだけみえたで……わたし、アレほしいなあ」
「じゃあ、オレがおとなになったら、Aにプレゼントする！」

　キラキラと憧れの視線を送る先に、幼いながらも嫉妬した。
普段オレの後を付いて回っているコイツの視線は、常にオレだけであるべきだ。
オレも、オレの事をいつも見てくれているこの子が密かに好きだった。
プレゼントする、そう言って無理矢理こちらを向かせると、Aはいつもより顔を赤くして微笑んだのだ。
笑うと目が無くなるのも、大好きだなぁ。

　今思えば可愛い嫉妬心だ。
だがしかし知らなかったとはいえ、オレはこの時大変な事を言ってしまった。
靴をプレゼントする意味なんて、人類の何パーセントが知っているのだろう。
いつだってやらかした事に気付くのはだいぶ後だ。

　その後オレたちは順調に愛を育んでいくものだと思ったら、彼女は家の都合ですぐに引っ越してしまった。
泣いて喚いて周りの大人に迷惑をかけたが、一人の男が失恋したんだ、どうか許して欲しい。

*

「あれ、チーノ君？」
「……へっ！？」

　月日は経ち、オレもいい大人になった。
結婚したい相手も居らず、大学時代の先輩達とノリで参加した街コン。
でもまさか、そこでAと再会するとは思わないじゃないか。

　オレはウケを狙った奇抜なファッション、隣にはオレの事を応援しているのか妨害したいのかわからない最低な男達……まったく、最悪なタイミングだ。

「久しぶりだね、私の事覚えてる？」
「おん、おん、当たり前やないか」

　対して彼女は清楚なワンピースに、綺麗に手入れされたロングヘア。
可愛いというより美人になったが、あの頃と変わらず笑うと目が無くなる。
隣にいるお友達も品があって大先生が好きそうなタイプだ。

.