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敢えて何の計画も提案せず、今日までいつも通りに過ごしてみた。
いつもだったら彼の方から何らかのアクションをくれるのに、今年に限って何も触れてこず。
まあ、何もしなくても大好きな彼と一日過ごせるなら何よりのプレゼントだなあ、と自分で自分を納得させていた、のに。
「そ、んな顔、するん……」
「こういう日は、朝一番に思いっきり抱きしめるのが彼氏でしょ……!」
「……仕方ねぇな」
仕方ないって何よ、そう言おうとして動かした顎を大きく硬い指に掬われた。
無理やり顔を上げられ、眼鏡をかけた彼の顔が真正面に映る。
彼は反対の手で眼鏡を外し、そして顔と顔が近づいて、ゆっくりと唇が重なった。
あったかくて、少し薄くて、甘い香り。
くっついて離れて、私の名前を呼んでもう一度くっついて。
眼鏡を掛けていない彼の瞳は、それでも私を真っすぐ捉えている。
また少し離れた唇に寂しさを感じたのはやはり彼が大好きだからで、そんな気持ちが少しでも伝わるように瞳を見つめ続けた。
「おはよ」
「……おはよう」
「そんで、誕生日おめでとう」
体を離してトントンは私の後ろに回り込んだ。
どうやら大きな体で隠していたのは、生クリームを纏った大きなスポンジケーキだったらしい。
丁寧に塗られた生クリームはとても綺麗で、お菓子作り初心者のトントンが作ったとは思えない。
でもそれを素直に見せてくれなかったのは、これが完成ではないからだろう。
後ろから大きなため息が聞こえ、振り向こうとした私を長い腕が抱きしめた。
ぎゅう、と力を込めるだけではなく額で私の頭をゴリゴリ擦っている。
「早起きしてサプライズのケーキ作っとったんやで、なのにどうしてこういう時だけA早起きするかな……」
「そういうことだったの……!?」
「まだ完成しとらんし、Aは変な勘違いしてしょげとるし……」
「ご、ごめん」
「……やっぱりサプライズっちゅうんは性に合わん!」
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作者名:すこ | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/home
作成日時:2022年3月9日 11時