【d!】春宵【短編集】 (ページ1)

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苺の香り/tn ページ1

鳥のさえずりで目を覚ます。すると、大きな違和感で眉間に力が入った。
朝起きて一番に力を入れるのが眉間なんて乙女らしくもないが、それぐらいの違和感が主に私の左側にある。
ポスポス、布団をまさぐってもあるべきものが無くただ少し冷たい布団が無限に続いているだけだ。
口の端は盛大に下がり、ネガティブな力で上半身を起こして左を見遣る。居ない、彼がいない。
昨日確実に彼と一緒にこのベッドに入り、「おやすみ」と言い合い、背中に温もりを感じながら眠りについたのに。

　もしかしたら昨日は一緒に寝たフリをして、私が寝たら早々に抜け出して他の女の所に行ったんじゃ……？
今はいつも起きる時間より少しだけ早いし、まだ寝てると思って帰って来ていない……？
だとしたら、一発殴ってやらなきゃ。殴って、どこの女か聞いて、そしてその女も殴ってやる！だって、今日は、だって今日は！

　完全に頭に血が上り、ベッドから飛び起きて寝室の扉を開け放つ。
誰も居ないであろうリビングにとりあえず向かって、武器になりそうな物を見繕ってから玄関に仁王立ちして出迎えてやろうか。
いや、取り合えず冷静になるために水でも飲むか……？
それとも今日という日の一番最初に大好きな彼が居ない事がどれだけ寂しいか、本人に長文のラインを送って……いや、それは流石に重いな。

　頭の中はぐちゃぐちゃでも寝室からリビングなんて数歩しかなく、落ち着く間もなくその扉の向こうが視界に入ってくる。

「はぇ！？」
「……は？」
「おま、起きてくんなよ！まっ……まじかぁ……」
「トントン？本物？」
「偽物が家に居たら怖ぇよ」

　扉の先に居たのは、キッチンで白いものまみれになりながら慌てた様子で何かを隠そうと立っているトントンだった。
普段私が付けているエプロンを何故か彼が付けており、数歩近づくと香るのは甘ったるい砂糖の香り。
更に近づくとわかるのは、頭の寝癖がとても可愛いという事。
ぴょんこ、と立っている束は明後日の方向目指して力強く存在している。

「何してるの？」
「それ以上近づくな、むしろ下がれ、」
「私たちに隠し事は無しでしょ」
「今回はそういう事じゃないんや」
「……私、目が覚めた時隣にトントンが居なくてびっくりしたんだよ。もしかして昨日私が寝た後他の女のところに行っちゃったんじゃないかって不安にもなった。だって今日、何の日かトントンも知ってるでしょ……」

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