王と皇帝は相容れない筈だった (ページ6)

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記憶に住まう人達ページ6

『あぁ、ここまでで大丈夫だ。ありがとう野坂。』
「いつもこの時間に帰宅するんですか？」
『まあな。』
「あまり僕の事、言えないのでは？」
『私は全生徒を守る義務があるからな。会長の責務というやつだ。』
「でも会長学校に来る時間も早いですよね。」
『…生徒会長だからな。』
「今めんどくさい奴って思いましたよね？」
『…あぁ、お前は七めんどくさい奴だな。ああ言えばこう言う、生意気な男だ。』
「ありがとうございます。」
『馬鹿。褒めてなどいない。』

戦術の皇帝という異名を持つ野坂悠馬
方や現代のアーサー王と呼ばれている柊蓮

星が煌めく夜空の下
その刹那、お互い抱えている重荷を忘れ
ただの中学生の様に談笑していた

「野坂さんお帰りなさい。今お迎えに上がろうかと思っていました。…？野坂さん、何か良い事でもありましたか？」
「いや、なんでもないよ。」
「そうですか？」
「それより明日の練習について話すから皆を呼んでくれ。」
「はい。」

その頃にはもう皇帝の顔をした野坂悠馬がいた

「あ、お姉ちゃんお帰り～。」
『遥。今日はこっちに戻っていたのか。』
「そうだ！聞いてよお姉ちゃん！なんか、いなか？いなくに？中から転入生が来るんだって！んで、新生雷門サッカー部が出来るらしいよ！」
『いな、くに…？』
なんだか聞き覚えのある
どこで聞いたんだ？

そう、あれは小さい頃…

『…っい、』
「お姉ちゃん！？だ、大丈夫！？」
思い出そうとしたら頭が割れそうな程の頭痛がした

波の音
利発そうな女性の声と、優しい男性の声？

「…、…」
『あ、』

「蓮。」
『父、様。』
「まだ知る時ではない。今はゆっくり休みなさい。」
いつもは厳しい父の声が優しい声音で私に休めと言う

あぁ、私の父はこの人だ

私は頭痛の元となったその記憶にそっと蓋をした

あんな人、知らない

今の私の家族は離れたけどお日さま園の人達と厳しいけど尊敬する父といつも笑顔を絶やさない優しい母と、自慢の可愛い弟だけだ

私を産んだ母さんの記憶は朧気だ
父さんの事は全く知らない

私が覚えている一番古い記憶は真っ白な病室と私を見るお日さま園の皆の心配そうな顔だ

勿論知りたくないわけではない

ただ言い知れぬ恐怖が私の胸中を脅かす

私は恐怖から逃げるように目を閉じた