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ものがたり ページ45

少女は私の存在を無視して、細い指でミカの血をすくい、舐めとる。


そして、私の横に倒れるフェリドに目を向けた。




「…それで?これはいったい、どういうことかしら?フェリド・バートリー」




隣で、フェリドが上半身を起こして、手を広げる。




「…これはこれは、我らが吸血鬼の女王…クルル・ツェペシ。お久しぶり。君はいつも綺麗だねえ」



「あらありがとう。あなたも相変わらず、いやらしい顔で笑うわね」





クルルと呼ばれた少女がそう言って、フェリドにこの状況の説明を求める。

私の知らない話をしている。『天使(セラフ)の実験』?『呪い』。吸血鬼の世界では、法に触れる。



なんの話だろう。先ほどから目眩がひどい。彼らの会話が一つ進むごとに、頭がくらくらとする。



私を置いて、話は進む。どんどん、物語は進んでいく。




クルルの鋭い爪が、フェリドを襲った。速い。今まで会ったどんな吸血鬼よりも。圧倒的な強さ。


あのフェリドが、なす術なく簡単に負けてしまう。その様子を、私はまるで視界に膜がかかったかのような状態で見る。


これも大事な、物語の一節。






「早く消えろ」



「はいはーい。でもまた来るよクルル。僕は君が大好きだからねえ」





千切れた腕をひらひらと振って、フェリドが背を向ける。くっつけた腕で、私の肩を叩いた。




「さ、帰るよ」




頭に靄がかかっている。現実が、現実に見えない。

ぼーっと焦点の定まらない目でフェリドを見上げれば、フェリドは怪訝な顔になり、そのまま私の体を横抱きにした。

抵抗はしない。彼がこうするのなら、そういうものなのだろう。




私を抱えたまま、フェリドはその場を後にする。



門のある広間を出て、ミカが、クルルがいる場所から、どんどん離れる。



ここで、物語に区切りがついた。安心して意識を手放せる。






ゆらりゆらりと揺れる景色を空虚な瞳で映しながら、私は一旦、この世界を放棄した。

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リリア - 最高です!!!!! (2021年8月14日 12時) (レス) id: c153dc8275 (このIDを非表示/違反報告)
さとう(プロフ) - ベルモットさん» 色気…!!ありがとうございます!嬉しいです…! (2020年4月19日 13時) (レス) id: 419fa80be8 (このIDを非表示/違反報告)
ベルモット - ストリート展開や文章に色気があってリアリティーが感じられました。 (2020年3月28日 17時) (レス) id: e8970a172e (このIDを非表示/違反報告)
さとう(プロフ) - 黒胡椒さん» ありがとうございます!がんばります〜! (2020年2月19日 0時) (レス) id: 419fa80be8 (このIDを非表示/違反報告)
黒胡椒(プロフ) - 好きです!更新頑張ってください! (2020年2月18日 16時) (レス) id: e2f590a1cb (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:さとう | 作成日時:2020年2月9日 21時

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