かわらぬもの ページ43
「くっ…そおおおお!」
優が、フェリドの屋敷から盗んだ拳銃を発砲する。
狙いはいい。けれどそんなものじゃ吸血鬼は殺せない。
「二人とも、みんなを連れて早く逃げて。地図は本物のはず。ここは私が足止めする」
「あれ、君もそっちにいるの〜?友達でしょ?一緒に逃げた家畜を捕まえるのを手伝ってよ」
「悪いけど、今はフェリドの敵だよ」
「そうか。なら殺そう」
行った直後、フェリドの姿が消えた。
一瞬で肉薄される。動きは見えない。なら勘でよけるしかない。
心臓を狙った一撃目は、咄嗟に体を低くすることで避けれた。その体制のまま剣を抜いて、フェリドの足をなぎ払うが、上に飛んでかわされる。
「行って!」
ほんの少し時間を稼いだところで叫べば、後ろで子供たちが一斉に出口に走り出した気配がした。
しかし、優とミカはまだ逃げない。殿を務めるつもりだろうか。
「おっと。へえ、昔に比べて、強くなったね」
「ぐ…っ」
首を狙った斬撃を難なくかわされて、息をつく間もなく拳が放たれる。
それを首を傾けて避ければ、避けきれなかった耳が千切れて飛んでいった。
やっぱり強い。しかも、手加減されている。
でも、私には奥の手が…
「あはぁ。君の考えている事なんてお見通しだよ。早くしないと逃げられちゃうからさ〜、許してね」
そう言ったフェリドの腕が、剣を握る私の腕を掴んで、体ごと地面に叩きつけた。
地面が割れる衝撃に肺の空気を吐き出せば、その隙にフェリドの足が私の右足を踏みつける。
骨が折れる音が響いた。
「うぐっ…!!」
「殺さなければ、君は無力だ。あの時も同じだったね」
そうだ。八百年前も、こうして生きたまま動きを封じられてしまった。
二度目だ。同じ失敗を、また私は。
「くそ」
フェリドが目の前からいなくなる。向こうで人の首が落ちる音がした。辺りに血の臭いが充満し始める。
「くそお」
立ち上がろうとするが、肋骨も何本か折れている。
ミカと優の叫び声が聞こえる。フェリドはまた、誰かの大切な人を奪うんだ。
子供たちに大した思い入れはない。ミカ以外、今日会ったばかりだ。
でも、かつての私の姿と重ねてしまう。無力で愚かで、守りたかったものを何もできずに奪われる。
八百年経っても私は変わっていなかった。ずっとずっと、無力なまま。
「くそお…っ!」
悔しくて悔しくて、たまらなかった。
98人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
リリア - 最高です!!!!! (2021年8月14日 12時) (レス) id: c153dc8275 (このIDを非表示/違反報告)
さとう(プロフ) - ベルモットさん» 色気…!!ありがとうございます!嬉しいです…! (2020年4月19日 13時) (レス) id: 419fa80be8 (このIDを非表示/違反報告)
ベルモット - ストリート展開や文章に色気があってリアリティーが感じられました。 (2020年3月28日 17時) (レス) id: e8970a172e (このIDを非表示/違反報告)
さとう(プロフ) - 黒胡椒さん» ありがとうございます!がんばります〜! (2020年2月19日 0時) (レス) id: 419fa80be8 (このIDを非表示/違反報告)
黒胡椒(プロフ) - 好きです!更新頑張ってください! (2020年2月18日 16時) (レス) id: e2f590a1cb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:さとう | 作成日時:2020年2月9日 21時