彼が吸血鬼になるまでの (ページ10)

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こまったページ10

月明かりを頼りに、なんとか街まで戻ってこれた。

まだ電気なんて便利なものが普及していない時代だから、この時代の夜は非常に暗い。

その分、月や星がよく見えるので、全くなにも見えないということはないけれど。

「…家もない、頼れる人もない、あとなんか臭い。困った、どうしよう」

中世ヨーロッパは、トイレなどなくて汚物を窓から放り投げる文化らしい。そのため街が非常に臭い。鼻をつまんでも口から臭いが入ってくるので、息をするのも辛い。

立ち止まっていても仕方がないとうろうろ徘徊しているが、正直八方塞がりだ。

途方に暮れていると、前方でゆらりと人影が動くのが見えた。

誰だろう、こんな時間に出歩くなんて。不審者かもしれない。

側から見れば自分も十分不審者なのだが、それは置いておこう。

そろりと物影から様子を伺うと、腰に剣を下げた、十字架の描かれた服を着た人が街の見回りをするように歩いていた。

…もしかして、あれがテンプル騎士？うわあ、本物の騎士だ！かっこいい！

このまま隠れてやり過ごすか、少し迷ってから、このままいても状況は改善しないと勇気を出して助けを求めることにした。

「あ、あの！」

「…なんだ、女。こんな時間に何をしている」

ぎろりと、冷たい視線で睨まれた。あれ？騎士ってもうちょっと優しいイメージがあったんだけど。

でもこんなところで怯んでいられない。こっちは命がかかってるんだ。

「私、帰る場所がなくて、今とっても困ってるんです。一夜だけでもいいので、どこか泊まれる場所を紹介してくれませんか？」

「テンプル騎士には、貞潔の誓いがある。誘う相手を間違えているぞ」

あれ、なにか間違った捉え方をされている気がする。

私の今の格好は、非常にシンプルな白いワンピース一枚だけ。さっき土に埋められたせいで薄汚れているし、商売女に間違えられても仕方がないかもしれない。

でもそんなの、こっちは泊まれる場所を探してるだけなのに、どう言ったら伝わるんだ。

「違うんです。本当に言葉通りの意味で、泊まれる場所を…ああ、えっと！」

「…大方、店から逃げ出したんだろう。諦めて、元いた場所に帰りなさい」

だから、違うんだってば！もう、文化の違い！！