彼が吸血鬼になるまでの (ページ8)

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なまえページ8

「ぷはあ、ご馳走さま」

街をぶらりと散歩していた最中に出会った少女が、今、自分の下で命を落とした。

一流の細工師が作ったような、非常に美しい少女だった。作り物のような顔をしているのに、その表情はとても人間らしい。

せっかくだから、僕の計画の一部として使用人に迎え入れようとしたのだけど、背を向けて逃げ出されたので味見のつもりでつい血を吸ってしまった。

「ん～…殺すつもりはなかったんだけど」

想像以上に彼女の血は美味しく、しかもその反応は自分の中の苛虐心をぞくぞくと奮い立たせるのだ。

我慢できなくて、殺すまで血を吸ってしまった。

吸血鬼の性質として仕方がないとはいえ、快楽を我慢する練習をした方がいいかもしれない。

ぱちん、と指を鳴らす。それに反応して、奥に隠していた使用人たちが数人姿を現した。どれも美しい容姿の者ばかりだ。

「これ、片付けといて」

「承知しました」

既に死体になってしまったものを指で示して、指示を出す。優秀な使用人たちは手際良くそれを回収していった。

…しかし。

「A、ね」

殺される間際に名乗った人間は、数百年生きてきた中でも初めてかもしれない。

だいたいは、自分が死ぬと分かった瞬間恐怖に身を縮めるか、命乞いをするものだ。

すでに死んだ人間の名前など、本当にどうでもいいもののはずなのだが。

「なーんか、頭に残っちゃったなあ」

首を傾げながら、それでもそのうち忘れる名だろうと、僕はその場を後にした。