彼が吸血鬼になるまでの (ページ7)

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おわるページ7

「逃がさないよーん」

一瞬で捕まった。

私が一歩を踏み出すよりも早く、腕を掴まれて押し倒された。
こんな動き、人間じゃありえない。こいつ、自分の正体を隠す気ない。

…殺される…？

「ぅ…」

「ああ、いいね。その顔。もう逃げられない、殺されるかもっていう、絶望の顔」

うつ伏せになった私の上に、ゆっくりと体重がかかっていく。
どうしよう、どうにもできない、怖い…！

何もできなくて、じわりと、目に涙が浮かんできた。

「あ…」

「うん？なに？」

死が間近に迫ってる中で、ふと口が動いた。

「私の、名前…」

小説で読んだ記憶がある。フェリドが、名前を忘れた子供から殺そうって決めてるところを。

「Aって、いいます」

今はそれしか、助かる希望が見えなかった。

「へえ、そう。いい名前だね。それじゃあ…いただきまーす」

そんなことどうでもいいと言うように、鋭い牙が私の首筋に食い込んだ。

肉が破ける痛みとともに、ずずずっと血が吸われていく。
血が抜けていく感覚に、たしかに快楽があった。

「あ、あ、ぁ…」

腕は体の後ろで固定され、フェリドの長身は私の体に乗っかっている。
少しの抵抗も許されず、だらしなく声を漏らすしかない。

そうだよね、実際、こんなものだ。

平凡な私なんかが、憧れの物語の中に入ったって、物語には一切関係ないところで終わってしまうのが関の山。

ほんの少しだけでも夢を見れただけ、よしとしよう。

ああ、それでも…せっかくなら……

クローリーに、会いたかったなあ…。