彼が吸血鬼になるまでの (ページ46)

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しんゆうページ46

騎士団を離れてしまっていいのかな、と少し不安になったけれど、今はなによりクローリーの事が心配なので、何も言わずに大人しくついていく。

庁舎の裏は、人でごった返している出入り口の方とは違って人通りが全くなかった。
人目のつかないその場所で、私はクローリーと向き直る。

「あの、クローリー様…」

「…」

クローリーの顔は、疲れこそ色濃く出ているものの、それ以外の感情を見てとることはできない。

でも、なにも感じてないはずはないのだ。私からどんな言葉をかければいいのかと逡巡していると、目を伏せて黙ったままだったクローリーが口を開いた。

「…ヴィクターは、死んだ」

「あ…」

「僕が弱かったせいで、仲間が大勢死んでしまった。本来ならこんな話、Aにするべきではないけど、君はヴィクターと少なからず交流があったからそれだけは伝えておきたかった」

ああ、そういう話か。

クローリーは私に頼る気なんて一切ないらしい。伝えるべきだと思ったから伝えた。それだけ。

それは確かに悲しい事だ。けど、私はその事を何日も前に夢で見たから知っている。
知りたいのは、今、目の前にいるあなたがどんな気持ちなのか。

「それは、残念です」

「ああ」

「とっても悲しいです」

「ああ」

「クローリー様も、そうでしょう？」

「…」

すっと目を伏せる。
どうしてそこで黙ってしまうの？
私は、じっと黙ってクローリーの返事を待った。

「…そうだね。悲しいよ」

「寂しいですね。とっても賑やかな人だったから」

「うん。彼がいなくなってから、部隊の士気を上げるのはとても大変だった。うるさいやつだったけど、彼はテンプル騎士団に必要な人間だったんだ」

「ああ、想像できます。きっとみんなの気分が沈んだ頃を見計らって、おかしな事を言ってみんなを笑わせたり」

「そうそう。喉が渇くから喋るなって言ってるのに、こりずに女の話をしだすんだ。結果的に、それが部隊の雰囲気を良い方向に持っていって」

はは、と今は亡き親友の事を思い出して、クローリーが笑う。

「良い人だったんですね、ヴィクター様」

「うん。親友だった」

静かな笑顔でクローリーが頷く。

涙を流したりはしなかったが、ほんの少し目尻が赤くなっているのを見つけて、けれど私はそれに気づかぬふりをした。